オタ福の語り部屋

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悪性黒色腫(メラノーマ)

今回は『悪性黒色腫(メラノーマ)』について説明します。

 

【目次】

 

【メラノーマを大まかに説明】

メラノーマは犬で多く見られる腫瘍で、猫ではあまり見られません。

メラノーマは表皮の中にいるメラノサイトが腫瘍化したものです。

メラノサイトはメラノソームからメラニン色素を作っています。

 

メラノーマができやすい場所

メラノーマはメラノサイトが多く存在している場所でできやすいです。

例えば、

・口腔内(歯肉>口唇>舌>硬口蓋)

・爪床

肉球

・目(黒目のところ)

・粘膜皮膚境界部

などです。

この辺にできた腫瘤はメラノーマの可能性を疑いましょう!

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ところで、どんな形の腫瘤ができるかを次に説明します。

 

メラノーマの外見

・茶〜黒色

・小さいのも大きいのもある

・表面がツルツルなのもシワシワなのもある

 

紫外線との関係性

人間の皮膚にできるメラノーマは紫外線が原因と言われています。

ただ、犬の場合ほとんどの品種が毛に覆われているので、そこまで影響しないと言われています。

むしろ、一部を引っ掻いたり舐めたりすることで、慢性的に傷を与えるとそこで腫瘍ができやすくなるなんて噂があります。

 

メラノーマの好発犬種

・スコッチ・テリア

ゴールデン・レトリバー

・プードル

ダックスフンド

などです。

そのほか、発生率に性別差はありません

老齢動物の方がなりやすいですが、若齢動物でも見られることがあります。

 

鑑別疾患

鑑別疾患とは同じような症状が見られる疾患のことで、検査などで見分けていく必要があります。

今回の場合では口腔内”にできやすい腫瘤を挙げていきます。

鑑別疾患

・扁平上皮癌

・線維肉腫

・エプーリス

・エナメル上皮腫

 

【病理学的に診断するには】

メラノーマを病理検査で診断するには免疫組織化学検査が必要です。

大体のメラノーマはメラニン顆粒を細胞質に含んだ紡錘形〜星芒形の細胞が多く見られるのですが、たまに非常に未分化であるが故に、メラニン顆粒を持たない「無色素性メラノーマ」と言われるものがあります。

 

無色素性メラノーマの診断に使用する抗体

・Melan-A

・S-100

・PNL2:メラノサイトの細胞膜や細胞質に発現

チロシナーゼメラニン合成に必要な酵素で、メラノソームの糖蛋白。

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【特徴と予後】

メラノーマはできる場所によって、局所浸潤性と転移の力価が大きく異なります。

 

皮膚にできたメラノーマ

粘膜付近ではない皮膚にできたメラノーマは良性の挙動を示すことが多いです。

外科的切除によって、簡単に治ってしまうことがあります。

しかし、マージン(本当に腫瘍が取り切れているのか見るもの)や細胞の特徴を調べるためにも病理検査は必ず行うべきです。

また、Ki-67を免疫組織化学検査することで、腫瘍の挙動がよりはっきりと分かります。

 

口腔や粘膜にできたメラノーマ

口腔や粘膜にできたメラノーマは悪性の挙動を示します。

ここで注意が必要なのが、病理組織検査の結果が良性であったとしても、臨床的には局所浸潤性と転移率が高く、悪性の挙動を示します。

これもやはり、Ki-67の免疫組織化学検査をしておくべきでしょう。

 

爪床(そうしょう)や肉球にできたメラノーマ

皮膚と粘膜の中間に位置するこれらの場所は悪性の挙動を示すと考えるべきでしょう。

リンパ節転移や遠隔転移のない指にできたメラノーマ患者の犬では中間生存期間は12ヶ月で1年生存率は42~57%、2年生存率は11~13%と言われています。

そして、今のところ指にできたメラノーマの転移率は30~40%とされています。

これは手術するときに明白な転移が認められなかった患者での結果です。

すなわち、診断時・手術時に転移が認められなくでも30~40%の確率で転移していることを示しています。

 

【ステージ分類】

WHOが設定している口腔内メラノーマのステージ分類法があります。

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最近の研究データを元に説明すると

中央生存期間(余命みたいなもの)は

ステージⅠ:12~14ヶ月

ステージⅡ:5~6ヶ月

ステージⅢ:3ヶ月

となっています。

ステージⅠでは手術後、抗がん剤放射線治療を行っていました。

主な死因として、切除した場所の再発によるものではなく、遠隔転移によるものでした。

 

メラノーマのステージ分類では以下のような検査を用いて行います。

・臨床徴候の確認

・身体検査

・血液検査(CBCや生化学)

・尿検査

・3方向胸部レントゲン

・領域リンパ節の細胞診

・リンパ節の腫脹を確認

 

リンパ節の腫脹が認められた犬の70%でリンパ節転移が認められました。

さらに、腫脹が認められなかった犬の40%でリンパ節転移が認められました。

リンパ節が腫脹していないからといって転移は否定できないないことが分かります。

 

口腔や粘膜、指にできるメラノーマは悪性の挙動を示すことが多いため、遠隔転移がないかを腹部エコーによって検査します。

メラノーマが転移しやすい場所(腹部臓器)

・腹腔リンパ節

・肝臓

・副腎

などです。

ちなみにメラノーマがもっとも転移しやすい臓器は『肺』です。

 

日本での動物への使用は認められてはいませんが、転移をより早期に発見するにはクエン酸ガリウムを用いたシンチグラフィがおすすめです。

 

【治療法】

外科的切除

外科的切除の特徴としては局所的な腫瘍に効果的であるのに対し、転移がある場合は効果が薄いです。

表皮にできるメラノーマのような

・腫瘍の大きさが2cm以下

・高分化

・可動性があり

・成長スピードが遅い

といった特徴をもつ良性腫瘍の場合は完全切除できる確率は高いですが、

 

口腔内にできるメラノーマのような

・腫瘍が大きい

・未分化

・周辺組織に固着している(腫瘍が動かない)

・成長スピードが早い

といった特徴をもつ悪性腫瘍の場合は取り残しが起きやすいです。

 

皮膚にできた良性メラノーマ

腫瘍とその周辺にある正常組織1cm分広く切除します。

深さは筋膜を含めて切除するのが理想的です。

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歯肉や骨近くにできた口腔内メラノーマ

ここに腫瘍ができた場合は下顎骨切除あるいは上顎骨切除を行わなければなりません。

一番やってはいけないのが、腫瘍部分だけを切除することです。

これは必ず、目には見えないぐらい小さな腫瘍細胞を取り残してしまいます。

そして、再発の原因になります。

可哀想ですが、やるならとことんやるのが腫瘍の外科的切除では鉄則でしょう。

 

術前のCTやMRIは骨浸潤やリンパ節転移の有無を評価するのに役立ちます。

設備的にできるならやっておくべきでしょう。

 

口唇や舌、骨から遠くにできたメラノーマ

これらのメラノーマは骨浸潤が影響しないので、軟部組織だけの切除で十分です。

しかし、骨浸潤を疑う場合は部分できた顎骨切除を行うべきでしょう。

 

第3前臼歯付近のメラノーマ

第3前臼歯よりも尾側にできた腫瘍は頭側にできた腫瘍に比べ、4.3倍も死亡率が上がります。

 

マージンの大切さ

マージン(腫瘍を完全に取り切ること)の話を先ほどからしていますが、このマージンが十分に取れているかいないかは非常に重要なことです。

というのも、

マージンが取りきれていなかった場合、マージンが十分取れた場合と比較して

3.6倍も腫瘍による死亡率が上昇することが分かっています。

マージン切除はとても大切なことなのです。

 

悪性メラノーマの場合、一般的に必要なマージンは2~3cmというデータがあります。しかし、口腔内にできるメラノーマでは正常組織といっても取れる範囲に限界があるので、このデータ通りの切除は難しいでしょう。

一般的には1~2cmでも十分であると言われています。

 

指にできたメラノーマでは腫瘍の近くから数個上の関節で断指するといいでしょう。

 

 

外科的切除した犬たちは…

外科的切除により顎を失った犬たちのQOLは口に大きな腫瘍を抱えていた手術前の状態に比べ、著しく上昇します。

ほとんどの犬はご飯もオペ後1~2日で元気良く食べ始めます。

指を切断した犬も、残りの指を上手に使い、元気に歩きます。

飼い主さんたちの満足度も高いです。

悪性メラノーマは大きく身体の一部を切除することになりますが、QOLを考えれば切除してあげる方が良いでしょう。 

 

 

放射線治療という選択肢】

口腔内メラノーマの治療法として、放射線治療は1つの治療戦略として考えられています。異論はありますが、一般的に口腔内メラノーマは放射線抵抗性の腫瘍とされていて、高線量のプロトコルを必要とします。

放射線治療ではしっかりと定められた少分割照射プロトコルがよく使われます。 

 

少分割照射法とは

通常の放射線治療プロトコルよりも一回当たりの線量を多く照射し、合計照射回数を少なくするという放射線治療プロトコルのことを言います。

 

少分割照射法のメリット

・少ない麻酔量

・低価格

・治療時間が短い

放射線による重篤な急性影響が少ない

 

少分割照射法のデメリット

放射線治療の効果が薄まる

・遅発性副作用が出現するリスクが上がる

 

治療効果

犬の口腔内メラノーマにおいて

部分寛解(PR)を示したもの:25~31%

完全寛解(CR)を示したもの:51~69%

何かしら反応を示したもの:82~94%

中央生存期間(余命みたいなもの):5.3~11.9ヶ月

ただこれらのデータは遡及的な研究、

つまり、

『このプロトコルでどんなデータが得られるかと“研究計画→実験→結果”によって研究されたもの』

ではなく

『結果がすでに出ていて、それを遡っていけばどのような治療がされていたかを調べる研究』

であるため、

実験者側が治療方法や治療期間設定できないため、バックグラウンドにデータ間で多少のバラツキができてしまいます。

そのため、結果はあくまでも目安として考えるべきでしょう。

 

放射線治療抗がん剤の併用は有効か?

放射線治療抗がん剤の併用が腫瘍の増殖を有意に抑えるうるかを多くの研究者が調べています。

結論としては、

放射線治療のみと放射線治療抗がん剤の併用治療で治療結果に大きな差は見られませんでした。

むしろ、抗がん剤を併用した犬では抗がん剤による副作用が多く見られたという報告があります。

 

1つだけ研究論文の結果を例にします。

『Murphy氏の遡及的な研究』

この研究では口腔内メラノーマを持っている28匹の犬に週1回 8Gy の放射線を4週 計 32Gy 照射しています。

15匹の犬には放射線治療に加え、21日おきにカルボプラチン300mg/m2 IV を行いました。

一方、残りの13匹の犬には抗がん剤治療を行いませんでした。

 

その結果、中央生存期間は

抗がん剤治療を併用した群:286日

放射線治療のみの群:307日

これら2つの群で有意な差は認められませんでした。

 

【引用文献】

『Oral malignant melanoma – the effect of coarse fractionation radiotherapy alone or with adjuvant carboplatin therapy』

 

放射線治療の予後因子とは

放射線治療を行うに当たって、以下の病変があるか無いかによって、放射線治療が成功するかの明暗を分けると言われています。

しかし、まだまだ議論が交わされている課題なので、鵜呑みにはできません。

 

放射線治療が成功するか

・骨破壊の有無

・腫瘍の大きさ

・血清VEGF(血管内皮成長因子)濃度 

  

放射線治療の副作用

放射線による副作用を紹介します。

・粘膜からの出血や潰瘍

・フケの増加

・皮膚の永久的な脱毛 

・骨壊死

放射線による新たな腫瘍の発生(※)

 

(※)放射線による新たな腫瘍とは

1)以前、放射線治療を行なった部位からの発生

2)最初に行なった放射線治療から十分に期間を空けてからの腫瘍の発生

3)前照射検査で骨は正常だったのに、骨由来の腫瘍ができた

4)組織学的に異なる腫瘍が新たに発生した

これらの条件が揃っている場合は再発ではなく、放射線照射が原因で起こった腫瘍と考えられるでしょう。

 

【化学療法】

抗がん剤

抗がん剤の使用は主に全身に抗腫瘍作用を与えるために用いられる治療法です。

口腔内メラノーマやKi-67高発現メラノーマは一般的に悪性度が高く、転移する確率も高いです。

転移を抑えるためにも全身的な治療は必要不可欠です。

 

メラノーマの抗がん剤に関するデータが以下になります。

・カルボプラチンで効果がある犬は28%

・シスプラチンで効果がある犬は18%

・そのほかの抗がん剤もほとんど効かない

 

これらのことから、メラノーマは抗がん剤に強い抵抗性を持っていることが分かっています。

 

COX-2阻害薬

COX-2とは炎症が起きるときに使われる酵素で、COX-2阻害薬とは非ステロイド系消炎剤として使われている薬です。

メラノーマ腫瘍細胞の増殖能や生存力とCOX-2の発現は正の相関があることが分かっています。

COX-2阻害薬の使用はメラノーマに対して有効である可能性があります。

 

【免疫療法】

・自家腫瘍細胞ワクチン

・遺伝子導入腫瘍細胞ワクチン(IL-2、GM-CSF、L-MTP-PE、FasリガンドDNA、抗サバイビン・Bcl-2遺伝子のsiRNA、CD40リガンドを持ったアデノ随伴ウイルス、など山ほどある)

・メラノソーム抗原を提示する樹状細胞ワクチン

 

これらの免疫療法がありますが、まだ実用化できるほど成熟した治療法では無いと思います。

実際、人で開発されたオプジーボのように、犬や猫でも同じものを作ろうと研究が進められていますが、現在治療法として確立されるのはありません。

しかし、腫瘍の免疫療法は非常にホットな研究テーマであり、そう遠くない将来にも実用化されると僕は思っています。

 

DNAワクチン

DNAワクチンとはペプチド抗原やタンパク質抗原をコードしているDNAやRNAを体内に接種し、それを抗原提示細胞に取り込ませ、腫瘍の抗原ペプチドを合成させようとするワクチンです。

メラノーマではチロシナーゼメラニン合成に関わる酵素であり、悪性のメラノーマではチロシナーゼの発現が過剰に起きていることが分かっています。

これを標的とした免疫療法ができれば、DNAワクチンが使えるようになるかもしれません。

 

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【最後に】(全体のまとめ)

今回はメラノーマについて開設しました。

皮膚にできるメラノーマは比較的良性なことが多い、

一方で

口腔内、粘膜、爪床や肉球にできる腫瘍は悪性なことが多いです。

治療法としては外科的切除放射線治療が一般的です。

メラノーマは抗がん剤に抵抗性を持っているため、現時点では全身的な抗腫瘍的治療法がないです。

そのため今後、全身的な抗腫瘍的治療法を開発していくことが急務であると考えられます。

今注目の免疫療法や癌ワクチンが開発され、実用化される日が楽しみです。