オタ福の語り部屋

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一番多い、皮膚の『肥満細胞腫』って?

今回は『肥満細胞腫』について説明する。

肥満細胞腫は皮膚にできる腫瘍で最も多いと言われている。また、3段階あるいは2段階にグレード分けされており、なりやすい犬種もある程度わかっている。

 

【目次】

 

【概要】肥満細胞腫の統計

犬の皮膚腫瘍で最も多い

犬の皮膚腫瘍では最も多い腫瘍であり、皮膚腫瘍の16~21%が肥満細胞腫と言われている。また、猫でも基底細胞腫、線維肉腫についで3番目に多く、皮膚腫瘍の16.5%がこれだと言われている。猫では皮膚というよりは脾臓などの内臓に肥満細胞腫ができることが多い。

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なりやすい犬種

肥満細胞腫になりやすい犬種はある程度決まっている。

・短頭種:ボクサー、ボストンテリア、イングリッシュ・ブルドッグパグ

レトリバー種ゴールデン・レトリバーラブラドール・レトリバー

・コッカースパニエル、シュナウザー、ビーグル、シャーペイ

日本で多く飼育されている犬種として、パグレトリバーで注意が必要だろう。

しかし、幸いなことにパグなどの短頭腫では肥満細胞腫は低グレードのことが多い。

一方で、シャーペイは比較的悪性度の高い肥満細胞腫であることが多い。

 

【病態】肥満細胞腫とはどんな腫瘍なのか?

肥満細胞腫は分子機構がある程度はっきり解明されており、受容体型チロシンキナーゼ(c-kit)が関与しているのではないかと言われている。

 

『c-kitとは(ここからはただの趣味で書いてます(笑))』

c-kitとは造血幹細胞やメラノサイト、肥満細胞など様々な細胞に発現している受容体である。

『stem cell factor(ここも趣味なので、飛ばして(笑))』

c-kitのリガンド(受容体を鍵穴としたら、リガンドは鍵のようなもの)はstem cell factor(SCF)である。日本語では『幹細胞因子』と呼ばれている。

幹細胞因子の役割は

・c-kitの二量体化

・c-kitを活性化し、リン酸化を促す

・増殖、分化、成熟を促す

であり、主にこれら3つの役割を担っている。

 

肥満細胞腫において、c-kitは細胞質に異常な偏在が認められており、これがc-kitの機能を制御不能にしている。

実際に中〜高グレードを示す肥満細胞腫の25~30%c-kitの遺伝子異常が認められており、SCFを必要としないでKITの活性化が見られる。

異常なc-kitをもつことで、先ほどのSCFがする役割を無視して増殖することが可能になるため、腫瘍化すると考えられる。

異常なc-kitの出現は再発や転移、そして予後の悪化に直結する。

 

正常なKITの場合

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異常なKITの場合

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【症状】ぽこっとできるから見つけやすい

『どの辺にできやすいか』

さすが、皮膚で最も多い腫瘍なだけあって、統計がしっかり取られており科学の力には感銘を受けるばかりである。もちろん出来やすい場所もある程度わかっている。

できやすい場所

・50%→体幹(腹部と背部)と会陰部(股の付け根)

・40%→四肢(前脚と後脚)

・10%→頭と首

ただ、陰嚢、陰茎、会陰部、爪床にできる腫瘍は悪性度が高いので注意が必要である。

 

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『どんなものができるのか』

ほとんどは孤立性で1つの腫瘍がぽこっと出来ていることが多い。

多発性と呼ばれ、ポコポコとたくさん出来ているものは少ない。

多発性は11~14%しかない。

大きさは大体

直径1~4cm程度

また、見た目は

『ドーム状で、表面は赤く、毛は生えていない』

こういった腫瘍を見つけた場合に守って欲しいことは

絶対に触らないこと!!

なぜかというと、肥満細胞腫は肥満細胞の塊であり、肥満細胞はアレルギーや寄生虫に感染した時に出ててくる炎症細胞なのだ。

つまり、

肥満細胞は炎症成分の塊である。

触ると、その炎症成分が大量に出てきて皮膚がただれてしまう。

絶対に触ってはいけない。

ちなみに肥満細胞が潰れたことで、皮膚がただれてしまう症状のことをダリエ徴候』という。

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『見た目以外の症状とは』

基本的に腫瘍を見つけた時点で病院に連れて行くことがほとんどだと思うので、当事者である犬は元気にしているだろう。

しかし、先ほども述べたように肥満細胞腫は炎症成分の塊である。

炎症成分であるヒスタミン、ロイコトリエン、ヘパリンが肥満細胞の外に漏れ出すと、様々な症状が出てくる。

具体的な症状

・元気が無くなる

・食欲不振

・吐く

・体重が減ってくる

胃潰瘍

など。これらは全てヒスタミンが大量に放出されたことで起こる症状である。

なので、絶対に触ってはいけないし、見つけたらすぐに病院に連れて行こう。

 

【診断】グレード分類?、ステージ分類?

肥満細胞腫には悪性か良性かを示す組織学的グレード分類病気がどれほど進行しているかを示すステージ分類をメインに行って行く。 

肥満細胞腫を診断すること自体はそこまで難しいものではないが、今後の治療方針を立てるためには。これらグレード分類とステージ分類が重要になってくる。

 

FNA:腫瘤に針刺して吸引

前述した肥満細胞腫の特徴的な外見とFNAによって、肥満細胞腫を診断する。

FNAとは体表や体腔内の結節性腫瘤(豆のような塊)に対して、針を刺し、その結節がどういった細胞成分で出来ているのかを調べる検査である。比較的簡便で、痛みを与えることも少ないため、臨床現場ではよく使われる検査方法である。

このFNA結果、肥満細胞が大量に確認できれば肥満細胞腫であると診断できる。

肥満細胞の確認は細胞質内にある顆粒を染色して、顕微鏡で観察することでできる。染色方法はライトギムザ染色、トルイジンブルー染色が勧められている。まあ、現場よく使われるロマノフスキー染色でも見えない事はないが…

ただ、注意点としてこのFNAという検査は非常に簡便であり、それゆえに今ひとつ正確度に劣るところがある。

そのため、次にやることは外科的な切除を行えるか判断し、行える場合はそれを病理検査に出して、より正確なグレード分類を行なわなければならない。

 

FNAより正確な病理組織検査とは?

先ほどのFNAとは主に『細胞のみ』を見る検査法であり、

病理組織検査とは『細胞とその細胞の配列』を見る検査法である。

つまり、情報量がFNAと比べて、多く確定診断としての正確性が高いのだ。

しかし、欠点としてはほぼほぼ外科手術をしているようなものなので、全身麻酔とそれなりの痛みを伴う。

なので、セオリーとしては

『疑わしい腫瘍→FNAで検査→病理組織検査』

となるだろう。いきなり手術を勧める早とちりな獣医には気をつけよう!

 

2つある⁈グレード分類とは?

肥満細胞腫のグレード分類の仕方はたくさんあるのだが、有名な分類法は2つだ。

①Patnaik分類②Kiupel分類がある。これら2つの特徴を話していこう。

①Patnaik分類

最も認知度が高く有名な分類法である。この分類法は病理組織検査の悪性度を元にグレードを3つに分けている。

グレード1(高分化型):30症例中の切除後1500日生存率は83%

グレード2(中間型):36症例中の切除後1500日生存率は44%

グレード3(未分化型):17症例中の切除後1500日生存率は6%

このPtanaik分類は3つにグレードを分けていて細分化されることでより詳細なデータが得られることが特徴だが、問題点もある。

3つあることで、どうしても心理的にグレード2にしたくなる。

ある研究ではグレード2と分類されていた症例が実はほとんどがグレード1と同様の挙動を示すといった報告もある。

こういったこともあり、臨床で重要なのは動物の体調をしっかりと管理し、モニタリングすることで、グレード分類を鵜呑みにするのは危険である。

 

②Kiupel分類

この分類法は最近新しく作られた方法で、最大の特徴は『低or高グレードの2グレード』で分類していることである。

細胞の形態を重視し、単純化し、明確に数値化された高グレード基準を設けることで、Patnaik分類ようなバラツキを防ごうとしている。

 

ステージ分類 グレード分類との違いとは

グレード分類は『腫瘍の悪性度』を示すものであり、ステージ分類は『腫瘍の進行度』を示すもの考えてもらえたら良い。 

ステージ分類はWHOによって明確に定義されているので、その定義を網羅的に書くことで留めておく。

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 【治療法】外科的切除のススメ

肥満細胞腫の治療法はできた場所と悪性度、進行度で、治療法が異なる。

外科的切除が可能な場合

場所的に外科的切除が可能で、単発性の腫瘍である場合、外科的な切除を行う。「マージン」といって腫瘍と正常組織の境界がはっきり見えるように大きく切除する。

だいたい腫瘍周囲の正常組織2cmが肥満細胞腫で勧められているマージン確保である。また、皮膚の下にある筋膜まで一緒に切除できれば、なお十分である。

 

外科的切除が不可能な場合

十分なマージンを確保できるほどの手術が不可能な場所に肥満細胞腫ができた場合、取れる範囲の腫瘍を外科的に切除し、その後放射線治療で管理していく方法がある。

抗がん剤治療は全身に効かすための局所的な治療なので、転移のない肥満細胞腫などの治療には向かない。

 

高グレードあるいは転移巣がある中グレードの場合

上と同様に手術+放射線治療を続けるが、

遠隔転移のリスクは高いため、予後は悪い。

遠隔転移に対しては抗がん剤を行うが、あまり効きづらく、予後が悪いのが現状である。

 

薬物療法

肥満細胞腫は抗がん剤が効きにくい。しかし、グレード3の肥満細胞腫や遠隔転移が認められる症例には薬物療法がしばしば用いられる。

通常、薬物療法を行う際はExon8,9,11の変異がないかをc-kit遺伝子検査で調べてから行う。遺伝子変異がない場合は抗がん剤を使用し、変異がある場合は後から紹介する分子標的薬を使用する。

抗がん剤(ビンブラスチン、ロムスチン)

①ビンブラスチンプレドニゾロン

古典的な抗がん剤プロトコルで、プレドニゾロンというステロイド薬を併用しているのがポイントである。

【副作用】

・好中球が減ってしまう好中球減少症

・肝臓で代謝され、胆汁とともに腸管を介し排泄されるので、肝臓機能に注意が必要

ステロイド薬の役割】

肥満細胞腫の細胞質内に糖質コルチコイド受容体があり、糖質コルチコイドと結合すると増殖抑制やアポトーシスにつながる。また炎症や浮腫も抑えられる。

 

②ロムスチン+プレドニゾロン

①のビンブラスチン+プレドニゾロンが効かない時に使用するプロトコルである。

【副作用】 

・好中球減少症、血小板減少症

・肝臓への毒性

 

分子標的薬 (イマチニブ、トセラニブ)

分子標的薬自体の詳しい説明は割愛するが、いうならば腫瘍増殖のネックになる分子の一部を狙って攻撃することで、腫瘍を潰す方法である。抗がん剤がビルごと吹っ飛ばす爆弾としてら、分子標的薬はビルにいる悪役幹部をスナイパーで撃ち抜く暗殺者みたいなものだ。つまり、副作用が少ない。

①イマチニブ

一部の肥満細胞腫でKIT受容体をコードしているc-kit遺伝子、特にExon11の領域の変異が認められることで、KIT受容体は変異を起こしている。変異を起こしているKIT受容体は異常なリン酸化シグナルを出すことで、肥満細胞に増殖を命令している。この異常なリン酸化をイマチニブが妨害することで、抗腫瘍効果を示している。

副作用も少ないが高価であるのがデメリットだ。

 

②トセラニ

セラニブはイマチニブと異なりKIT以外に血管内皮細胞成長増殖因子受容体(VEGFR)にも作用し、血管新生を阻害する。

血管新生とは腫瘍が血管を作る作用である。腫瘍はものすごいスピードで増殖する代わりに、その分栄養をかなりの量必要になる。そうした時に自分の方に栄養をたくさん送るようにするために血管を作り始める。この血管新生をブロックすることで腫瘍の栄養供給を絶たせ、成長を遅らせるのだ。

 

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【さいごに】

今回は皮膚の肥満細胞腫について説明した。

皮膚の肥満細胞腫は皮膚腫瘍で最も好発であり、たくさん研究が進んでいるため話せることが多くて嬉しく思う。

少しでも肥満細胞腫を理解し、症状、治療法について分かってもらえたら幸いだ。