オタ福の語り部屋

オタクじゃない、俺はオタ福だ!

アジソン病(副腎皮質機能低下症)

今回は『アジソン病(副腎皮質機能低下症)』について説明します。

アジソン病は犬でよく見られ、猫では非常に稀な内分泌疾患です。

副腎ではグルココルチコイドやミネラルコルチコイド、性ホルモンといったホルモンを分泌する器官で、その分泌能を失うとどのような症状が出てくるのかを見て行きましょう!

 

ちなみに、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)というアジソン病の逆?についての記事はこちらを参考にして下さい↓↓

otahukutan.hatenablog.jp

 

【目次】

 

【副腎皮質とは】

副腎皮質は外側から球状帯、束状帯、網状帯と呼ばれる3つの層状構造を持っています。

冒頭でもお話ししましたが、副腎はホルモンを分泌しています。

そのホルモン分泌は層ごとにホルモンの種類が異なります。

球状帯:ミネラルコルチコイド→主にアルドステロン

束状帯:グルココルチコイド→主にコルチゾール

網状帯:性ホルモン→主にアンドロジェン

 

※アルドステロン:腎臓でNaの再吸収、細胞内K濃度の維持

コルチゾール:血糖値上昇、抗炎症作用など

※アンドロジェン:テストステロン(男性ホルモン)の元になる

 

これらのホルモンは生命維持に不可欠なホルモンであり、アジソン病によるホルモンの分泌不全は死へ直結します。

副腎はそれだけ大切な器官なのです。

f:id:otahukutan:20181110210729p:plain

 

 

【病態生理:何が起こっているのか】

人のアジソン病では…

ステロイド産生に関与する酵素である21-ヒドロオキシラーゼに対する自己抗体が産生されていることが分かっています。

つまり、自分で自分のホルモン産生を邪魔しているということです。

 

犬の場合は…

詳しくは分かっていないです。リンパ球形質細胞性副腎炎や副腎萎縮が見られることから、何らかの免疫異常が原因ではないかと考えられています。

 

ある特定の遺伝子が原因?

アジソン病には好発品種が存在することから、ある特定の遺伝子がアジソン病に関与しているのではないかと言われています。

まだはっきりとは解明されてないので、あくまで“可能性がある”ということです。

 

家族性アジソン病の素因がある品種

ポメラニアン

・グレート・デン

・レオンベルガー

 

現時点で解明されていること

アジソン病に関連する遺伝子に関して

・常染色体優勢遺伝病ではない

・関与する遺伝子は1つだけではない

 

スタンダード・プードルやウォーター・ドッグ

・常染色体劣性遺伝病である

・主に関与する遺伝子は1つ

 

ウォーター・ドッグやスプリンガー・スパニエルで関与する遺伝子

犬白血球抗原をコードしている遺伝子

CTLA-4をコードしている遺伝子

※CTLA-4

制御性T細胞(Treg)の細胞膜に多く発現している分子で、T細胞の活性化を抑制する方向に働かせます。

この分子をコードしている遺伝子に変異が起こると、T細胞の制御ができず、必要以上に活性化させてしまうため、自己免疫疾患を誘導する原因となります。

 

コッカー・スパニエルで関与する遺伝子

PTPN22をコードしている遺伝子が過剰に発現している

※PTPN22について

protein tyroisne phosphatase non-receptor type 22 の略称で日本語ではプロテインチロシンフォスファターゼ非受容体22と言います。

T細胞やB細胞の受容体応答を亢進させ、自己免疫疾患を誘導します。

 

【分類:原発性?続発性?】

原発性副腎皮質機能低下症

原発性副腎皮質機能低下症とは副腎皮質が直接傷害を受ける疾患です。

このタイプには定型と非定型の2つの分類があります。

定型(90%):グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの分泌能低下

非定型(10%):グルココルチコイドのみ分泌能低下

 

アルドステロン分泌能低下の有無は非常に重要で、主に電解質(NaやK)で大切です。

アルドステロン分泌能が低下すると、低ナトリウム血症や高カリウム血症を引き起こし、生命維持を揺るがす大きな問題となります。

しかし、

この定型、非定型は症状と必ずしもマッチしないことがあります。

診断当初はNaやKの濃度は正常であったが、次第に悪化してくる場合や、

もともと電解質調整をアルドステロンに依存しない体質の犬ではNaやKの濃度の異常が見られない場合もあります。

 

考えられる原因

もし仮に

人と同様、21-ヒドロオキシラーゼに対する自己抗体が犬のアジソン病に関与していたなら、

アルドステロン値の低下はコルチゾール値の低下よりも遅く出るはずです。

というのも 、アルドステロンを分泌する球状帯は束状帯や網状帯と比べ、21-ヒドロオキシラーゼの濃度が少ないためです。

 

その他、クッシング症候群の治療薬であるトリロスタン(アドレスタン®️)の過剰投与でも、副腎皮質機能低下を引き起こす可能性があります。

f:id:otahukutan:20181110210818p:plain

 

 

続発性副腎皮質機能低下症

続発性副腎皮質機能低下症は視床下部や下垂体が何らかの障害を受ける

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌不全が起こる

副腎での副腎皮質ホルモンの分泌指令が出なくなる

こういった下垂体や視床下部が原因によるものを続発性と言います。

 

続発性の特徴①

アルドステロン分泌の制御は主にRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)と呼ばれるシステムが行なっているため、一般的に枯渇するのはコルチゾールのみとなっています。

 

続発性の特徴②

非定型原発性と同様、アルドステロンの低下を認めません。

しかし、原発性の場合ACTH濃度の低下を認めないという点で、続発性と異なります。

続発性はACTH分泌不全による副腎皮質機能低下症です。

 

続発性の特徴③(医原性続発性副腎皮質機能低下症)

外因性のステロイドを長期間投与していると、下垂体がネガティブフィードバッグを受け、ACTHの分泌を抑制してしまいます。

ステロイドを休薬してから、下垂体のACTH分泌能を回復するまでは時間が必要なため、徐々に減薬しなければなりません。

f:id:otahukutan:20181110211900p:plain

 

 

【臨床徴候】

好発年齢

3~4歳

しかし、バラツキが多く6ヶ月齢~12歳齢まで見られる。

 

好発品種

チワワ、ゴールデン・レトリバーヨークシャー・テリア、ピット・ブル

 

身体検査

脱水

アルドステロンの低下により、Naの再吸収が腎臓でできなくなります。Naは浸透圧を高め、尿量を増やします。そのため、多尿が見られます。

尿として体の水分が大量に出ていくため、脱水が起こります。

 

収縮期血圧の低下

アジソン病ではないと診断された犬と比較して、アジソン病の犬では有意に血圧が低下しています。

・アジソン病でない犬の血圧中央値:140mmHg(50~210mmHg)

・アジソン病の犬の血圧中央値:90mmHg(40~150mmHg)

 

その他

・低血圧:脱水とグルココルチコイドの枯渇による

・徐脈:高K血症による(K濃度勾配↓→再分極の延長→不応期の延長)

・腹痛:グルココルチコイドの枯渇→腸粘膜の傷害

 

高K血症で起こっていること生理学なので読み飛ばしオッケー!!

本来、心臓では

『心筋細胞のNaチャネル開口→脱分極→Caチャネル開口→プラトー相(ゆっくり脱分極)→Kが濃度勾配によって細胞外へ急速に流出→再分極』

を繰り返しています。

 

しかし高K血症の時は心筋細胞外液のカリウム濃度が異常に高い状態になっています。

これにより、

 

『心筋細胞のNaチャネル開口→脱分極→Caチャネル開口→プラトー相(ゆっくり脱分極)→Kが濃度勾配によって細胞外へ急速に流出Kの濃度勾配が低く、流出速度が著しく低下再分極が延長→なかなか次の収縮活動に移れない』

 

これにより心拍数が落ち、徐脈になります。

 

【症状】

副腎皮質機能低下症で見られる症状は以下のものです。

・食欲不振

・体重減少

・嘔吐:血が混じることは少ない

・下痢:血が混じることは少ない

・無気力、虚弱:グルココルチコイド の枯渇による低血糖

・多飲多尿:アルドステロン枯渇でNaの再吸収↓→浸透圧利尿

・震え低血糖による

・虚脱重篤なケース。全身の力が抜けて倒れ込んでいる状態

ただ強いストレス下に身を置くと、一時的に症状が消えることがあるので注意が必要です。

 

【診断】

診断の大まかな流れ

アジソン病を疑う症状、身体検査が見られる

血液検査で視床下部ー下垂体ー副腎軸の異常を見抜く

ACTH刺激試験により、確定診断する

 

こんな感じで診断のフローがあります。

それぞれを細かく見ていきましょー^_^/ 

血液検査(CBC

110匹のコントロール犬と53匹の副腎皮質機能低下症の犬を比較した実験でわかったこと

・赤血球系は有意な差は見られない

・好中球は減少する

・リンパ球と好酸球は上昇する

 

血液検査(生化学)

電解質

副腎皮質機能低下症の犬ではアルドステロンの枯渇により、Naの再吸収とKの排泄ができなくなります。

そのためこの病気をもつ80%の犬では低Na血症と高K血症を示すことが報告されています。

そのほかの電解質でも低Cl血症と高Ca血症があります。

Na:Kの比は副腎皮質機能低下症を疑う1つの指標となります。

Na:K=1:>27の時→95%副腎皮質機能亢進症を疑う

Na:K=1:<24の時→ACTH刺激試験を行うことで確定できる

 

 

腎前性高窒素血症

循環血液量の減少と脱水が主な原因です。

この時、腎マーカーであるBUN、Creは

BUN:高値

Cre:正常値

となります。

重度になると急性腎障害などを引き起こしますが、治療を開始するとすぐに元に戻ります。

 

 血液ガス(アシデミア)

アシデミアとは『血液のpHが酸性に傾いている状態』のことを言います。

副腎皮質機能低下症を示す犬の63%がこのアシデミアという状態になっています。

 

アシデミアになる原因

通常、近位尿細管上皮では

Na-H逆輸送担体によってNaが再吸収される代わりにH+が尿細管管腔内に放出されます。放出されたH+は管腔内でHCO3-と結合し、H2CO3となり、その後H2OとCO2に分けられ、尿細管上皮に吸収されています。

しかし、アルドステロン枯渇によるNa再吸収阻害が起こるため、H+の放出ができず、HCO3-も吸収されずに排泄されます。

これにより、血液のpHは酸性に傾きます。

 

f:id:otahukutan:20181110220733g:plain

 

低Cl血症

副腎皮質機能低下症を示す犬の40~60%で見られます。

遠位尿細管と集合管の間にある接合尿細管ではNa-Cl共輸送担体があり、NaとClは一緒に再吸収されています。

低Clが見られる原因はこのNa-Cl共輸送担体が影響しています。Naの再吸収が阻害される病気なので、一緒に吸収されるはずのClまで再吸収されないためです。

 

 

高Ca血症

副腎皮質機能低下症で多く見られるのは総カルシウムの上昇で、イオン化カルシウムの上昇はあまり見られません。

ただ、なぜ高Ca血症を示すのか完全には分かっていません。

 

【高Ca血症の原因①】

PTHrP(パラソルモン関連タンパク)活性型ビタミンD濃度(1,25-ジヒドロキシビタミンD3:カルシトリオール)関与して“いない”です。 

 

【高Ca血症の原因②】

グルココルチコイドはカルシウムの排泄を促すのですが、そのグルココルチコイドが枯渇することは血中Ca濃度の上昇に繋がります。

 

 

低血糖 

約20%の犬で低血糖が見られます。ただ、その程度は軽度で、命に関わるような重度の低血糖になるのは稀です。

原因としてはグルココルチコイドの枯渇に伴い、糖新生やグリコーゲンの産生ができなくなっています。

 

尿検査

Naの漏出多尿によって等張尿が見られます。

 

心電図

徐脈が見られる犬では高K血症に伴い

・P波の消失

・QRS波の延長

・テント状T波の出現

が見られます。

 

X線

小心症←循環血液量低下に伴う

 

f:id:otahukutan:20181110222627p:plain

 

【副腎系の診断方法】

副腎皮質機能低下症を証明するためにはグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの分泌能を検査する必要があります。

ただ、1つの検査で2つの分泌能をまとめて見ることはできないので、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドは別々に検査します。

ACTH刺激試験

グルココルチコイドの分泌能の低下を証明するためにはACTH(副腎皮質刺激ホルモン)刺激試験を行います。

 

グルココルチコイドの検査

ACTH刺激試験を行う前に血清コルチゾール濃度を測定

合成ACTHを5mcg/kgをIV(静脈投与)←IVじゃないと意味ない

1時間後、再び血清コルチゾール濃度を測定

 

結果

血清コルチゾール濃度

正常:刺激前→0.5~0.6mcg/dL 刺激後→>2mcg/dL

アジソン病:刺激前も刺激後も→<1mcg/dL

※たまにアジソン病でも1mcgを超えている犬がいるので、除去診断も大切です。

 

ミネラルコルチコイドの試験

血清NaとKの濃度を評価することでアルドステロンの分泌能を間接的にですが、測定できます。

そのほか、血清アルドステロン濃度と血清レニン活性の比でもわかります。

副腎皮質機能低下症の犬ではその比が著しく低いです。

 

 

基礎コルチゾール濃度の測定

副腎皮質機能低下症の除去診断や非定型アジソン病の診断に有効です。

 

【治療法:アジソンクリーゼ】

アジソンクリーゼとはアルドステロンの枯渇により、電解質異常が重度になった状態で、一般的に緊急疾患として考えられています。

 

輸液療法

低Na血症の是正

生理食塩水による補液が推奨されています。

生理食塩水にはNaとClが多く、Kが少ないという特徴があるため、アジソンクリーゼになっている犬では生食の輸液が一番効果的なのです。

 

低Na血症が持続すると脳浮腫になります。

これは細胞外液の浸透圧低下に伴う脳浮腫です。

高K血症はNaの是正とともに治ることが多いです。

 

高K血症の是正

ブドウ糖液を静脈注射することもあります。

理論としては

ブドウ糖を静注し、血糖値をあげる

インスリンが分泌される

糖と一緒にKも細胞内へ運ばれる

という流れです。

注意点としてはブドウ糖を入れると血漿浸透圧が上昇し、水分が増えるので、血中Naは希釈され、濃度は下がってしまいます。低Na血症が重度の時は気をつけましょう。

 

ブドウ糖の静注でコントロールできなかった場合は、直接インスリンを投与してしまうのもアリです。しかし、その時は低血糖にならないかを注意しましょう。

 

DOCPの投与

DOCPとはピバル酸デソキシコルチコステロンといい、長期作用型のミネラルコルチコイド製剤です。

ACTH刺激試験を行なった後、アジソン病が確定してから投与するべき製剤です。

2.2mg/kgで筋肉注射します。

 

グルココルチコイド療法

グルココルチコイド療法は通常必要はないのですが、使用する場合はACTH刺激試験を行うのに必要な1時間は我慢するべきです。

というのも、ACTH刺激試験を行う前にグルココルチコイドを投与してしまうと、下垂体での負のフィードバックがかかり、ACTHがうまく副腎で反応しなくなるためです。

 

どうしても必要だという時はデキサメタゾンを使用するべきです。

デキサメタゾンコルチゾール分泌能評価に影響を与えないためです。

しかし、やはりこれも視床下部からでるCRHや下垂体からのACTHの分泌を抑制するので、多少結果にアーチファクトがかかってしまいます。

 

【治療法:維持療法】←足りない分を補うイメージ

電解質異常もなく、嘔吐、下痢、食欲不振もなくなって、状態が安定してきたら、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの投与によって、病気のコントロールを行なっていきます。もし、電解質異常が見られない場合はグルココルチコイドの投与だけでも大丈夫です。

 

グルココルチコイドの投与

副腎皮質機能低下症でよく使われるグルココルチコイドはプレドニゾロンフルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンです。

用量は医原性クッシング症候群に注意しながら、症状を抑えられる用量を見つけていきます。それにはある程度の試行錯誤が必要です。

徐々に減薬していき、半数の犬ではもう投薬が必要なくなるところまで回復します。

あと、ストレスがかかることが予想される場合はあらかじめ、投与しておくべきです。

 

 

 グルココルチコイド製剤の違い

プレドニゾロン、フルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン何が違うのかについて話したいと思います。

先ほどこれらの薬についてグルココルチコイドとして説明しましたが、これらの薬はミネラルコルチコイドも含まれています。

下の表を参考にしてみてください。

f:id:otahukutan:20181109110534p:plain

ですので、何が足りてなくて何を補いたいかで使われる製剤は変わります。

 

・グルココルチコイドの補充がしたい→プレドニゾロン

・ミネラルコルチコイドの補充“も”したい→フルドロコルチゾン

・どちらも万遍なく補充したい→ヒドロコルチゾン

といった具合になります。

 

ミネラルコルチコイドの投与

上の表で一発で分かると思いますが、ミネラルコルチコイドを投与したい時はDOCPとフルドロコルチゾンを用います。

NaとKのバランスをモニタリングしながら、投与量を決めていきます。

 

【治療中の経過観察】

副腎皮質ホルモン製剤の適度な用量を見つけるためには、頻繁に通院し、コストもかかります。しかし、一度適度な用量を見つけたら、あとは犬の調子を見つつ、NaとK濃度を再チェックするために数ヶ月に1回通院するだけですみます。

 

グルココルチコイドは健康状態を見ながら徐々に減量していきます。

ミネラルコルチコイドもNa:K比レニン活性を見ながら、減量していきます。

 

投薬期間、この症状が見られたら注意

多飲多尿が見られたら注意です。

多飲多尿は副腎皮質ホルモンが過剰に出ても、枯渇しても起きてしまう症状で、投薬量のコントロールに失敗していることがを暗示しています。

 

副腎皮質ホルモン

過剰の場合:コルチゾールバソプレシン(抗利尿ホルモン)を抑制→尿量増加

枯渇の場合:アルドステロン分泌能低下→Na再吸収能低下→浸透圧利尿→尿量増加

 

【最後に(まとめ)】

今回は副腎皮質の機能が低下してしまうアジソン病について紹介しました。

簡単にまとめたので、ぜひ復習に使ってみて下さい!

 

原因

副腎由来のアジソン病自己免疫疾患の関与が疑われる

視床下部・下垂体由来のアジソン病腫瘍や外傷などが考えられている

 

症状

消化器症状:嘔吐、下痢→食欲不振→体重減少

アルドステロン枯渇:多尿→多飲あるいは脱水

低血糖・低血圧:無気力、震え、虚脱

 

診断

血検:低Na血症、高K血症→Na:K比が<27で95%疑う、アジデミア

心電図:高K血症→徐脈、テント状T波、QRS波の延長、P波の消失

X線検査:脱水→循環血液量減少→小心症

尿検査:Naの漏出→尿濃縮能↓→等張尿

ACTH刺激試験:刺激前後で血清コルチゾール濃度が上昇しない

 

治療法(アジソンクリーゼ)

輸液療法:生食→Na、Kの均衡を正す、

ブドウ糖インスリン分泌↑→糖と一緒にKを細胞内へ移動

DOCP:強力なミネラルコルチコイド製剤→Naの再吸収能↑→Na:Kを是正

 

治療法(維持療法)

グルココルチコイド の投与:状況に合わせて、用量を製剤の種類を変える

ミネラルコルチコイドの投与:DOCPやフルドロコルチゾン

 

経過観察

モニタリング:最初はこまめに投与量を調整、安定するまで。

注意すべき症状:多飲多尿→投与量の失敗を示唆→早急に対応すべき

 

予後

安定すると割と良好な経過をたどる

半数近くの犬が副腎皮質ホルモン製剤を断つ事ができる

悪性黒色腫(メラノーマ)

今回は『悪性黒色腫(メラノーマ)』について説明します。

 

【目次】

 

【メラノーマを大まかに説明】

メラノーマは犬で多く見られる腫瘍で、猫ではあまり見られません。

メラノーマは表皮の中にいるメラノサイトが腫瘍化したものです。

メラノサイトはメラノソームからメラニン色素を作っています。

 

メラノーマができやすい場所

メラノーマはメラノサイトが多く存在している場所でできやすいです。

例えば、

・口腔内(歯肉>口唇>舌>硬口蓋)

・爪床

肉球

・目(黒目のところ)

・粘膜皮膚境界部

などです。

この辺にできた腫瘤はメラノーマの可能性を疑いましょう!

f:id:otahukutan:20181108223204p:plain

ところで、どんな形の腫瘤ができるかを次に説明します。

 

メラノーマの外見

・茶〜黒色

・小さいのも大きいのもある

・表面がツルツルなのもシワシワなのもある

 

紫外線との関係性

人間の皮膚にできるメラノーマは紫外線が原因と言われています。

ただ、犬の場合ほとんどの品種が毛に覆われているので、そこまで影響しないと言われています。

むしろ、一部を引っ掻いたり舐めたりすることで、慢性的に傷を与えるとそこで腫瘍ができやすくなるなんて噂があります。

 

メラノーマの好発犬種

・スコッチ・テリア

ゴールデン・レトリバー

・プードル

ダックスフンド

などです。

そのほか、発生率に性別差はありません

老齢動物の方がなりやすいですが、若齢動物でも見られることがあります。

 

鑑別疾患

鑑別疾患とは同じような症状が見られる疾患のことで、検査などで見分けていく必要があります。

今回の場合では口腔内”にできやすい腫瘤を挙げていきます。

鑑別疾患

・扁平上皮癌

・線維肉腫

・エプーリス

・エナメル上皮腫

 

【病理学的に診断するには】

メラノーマを病理検査で診断するには免疫組織化学検査が必要です。

大体のメラノーマはメラニン顆粒を細胞質に含んだ紡錘形〜星芒形の細胞が多く見られるのですが、たまに非常に未分化であるが故に、メラニン顆粒を持たない「無色素性メラノーマ」と言われるものがあります。

 

無色素性メラノーマの診断に使用する抗体

・Melan-A

・S-100

・PNL2:メラノサイトの細胞膜や細胞質に発現

チロシナーゼメラニン合成に必要な酵素で、メラノソームの糖蛋白。

f:id:otahukutan:20181108224328p:plain

 

【特徴と予後】

メラノーマはできる場所によって、局所浸潤性と転移の力価が大きく異なります。

 

皮膚にできたメラノーマ

粘膜付近ではない皮膚にできたメラノーマは良性の挙動を示すことが多いです。

外科的切除によって、簡単に治ってしまうことがあります。

しかし、マージン(本当に腫瘍が取り切れているのか見るもの)や細胞の特徴を調べるためにも病理検査は必ず行うべきです。

また、Ki-67を免疫組織化学検査することで、腫瘍の挙動がよりはっきりと分かります。

 

口腔や粘膜にできたメラノーマ

口腔や粘膜にできたメラノーマは悪性の挙動を示します。

ここで注意が必要なのが、病理組織検査の結果が良性であったとしても、臨床的には局所浸潤性と転移率が高く、悪性の挙動を示します。

これもやはり、Ki-67の免疫組織化学検査をしておくべきでしょう。

 

爪床(そうしょう)や肉球にできたメラノーマ

皮膚と粘膜の中間に位置するこれらの場所は悪性の挙動を示すと考えるべきでしょう。

リンパ節転移や遠隔転移のない指にできたメラノーマ患者の犬では中間生存期間は12ヶ月で1年生存率は42~57%、2年生存率は11~13%と言われています。

そして、今のところ指にできたメラノーマの転移率は30~40%とされています。

これは手術するときに明白な転移が認められなかった患者での結果です。

すなわち、診断時・手術時に転移が認められなくでも30~40%の確率で転移していることを示しています。

 

【ステージ分類】

WHOが設定している口腔内メラノーマのステージ分類法があります。

f:id:otahukutan:20181103000121p:plain

 

最近の研究データを元に説明すると

中央生存期間(余命みたいなもの)は

ステージⅠ:12~14ヶ月

ステージⅡ:5~6ヶ月

ステージⅢ:3ヶ月

となっています。

ステージⅠでは手術後、抗がん剤放射線治療を行っていました。

主な死因として、切除した場所の再発によるものではなく、遠隔転移によるものでした。

 

メラノーマのステージ分類では以下のような検査を用いて行います。

・臨床徴候の確認

・身体検査

・血液検査(CBCや生化学)

・尿検査

・3方向胸部レントゲン

・領域リンパ節の細胞診

・リンパ節の腫脹を確認

 

リンパ節の腫脹が認められた犬の70%でリンパ節転移が認められました。

さらに、腫脹が認められなかった犬の40%でリンパ節転移が認められました。

リンパ節が腫脹していないからといって転移は否定できないないことが分かります。

 

口腔や粘膜、指にできるメラノーマは悪性の挙動を示すことが多いため、遠隔転移がないかを腹部エコーによって検査します。

メラノーマが転移しやすい場所(腹部臓器)

・腹腔リンパ節

・肝臓

・副腎

などです。

ちなみにメラノーマがもっとも転移しやすい臓器は『肺』です。

 

日本での動物への使用は認められてはいませんが、転移をより早期に発見するにはクエン酸ガリウムを用いたシンチグラフィがおすすめです。

 

【治療法】

外科的切除

外科的切除の特徴としては局所的な腫瘍に効果的であるのに対し、転移がある場合は効果が薄いです。

表皮にできるメラノーマのような

・腫瘍の大きさが2cm以下

・高分化

・可動性があり

・成長スピードが遅い

といった特徴をもつ良性腫瘍の場合は完全切除できる確率は高いですが、

 

口腔内にできるメラノーマのような

・腫瘍が大きい

・未分化

・周辺組織に固着している(腫瘍が動かない)

・成長スピードが早い

といった特徴をもつ悪性腫瘍の場合は取り残しが起きやすいです。

 

皮膚にできた良性メラノーマ

腫瘍とその周辺にある正常組織1cm分広く切除します。

深さは筋膜を含めて切除するのが理想的です。

f:id:otahukutan:20181108221600p:plain

 

歯肉や骨近くにできた口腔内メラノーマ

ここに腫瘍ができた場合は下顎骨切除あるいは上顎骨切除を行わなければなりません。

一番やってはいけないのが、腫瘍部分だけを切除することです。

これは必ず、目には見えないぐらい小さな腫瘍細胞を取り残してしまいます。

そして、再発の原因になります。

可哀想ですが、やるならとことんやるのが腫瘍の外科的切除では鉄則でしょう。

 

術前のCTやMRIは骨浸潤やリンパ節転移の有無を評価するのに役立ちます。

設備的にできるならやっておくべきでしょう。

 

口唇や舌、骨から遠くにできたメラノーマ

これらのメラノーマは骨浸潤が影響しないので、軟部組織だけの切除で十分です。

しかし、骨浸潤を疑う場合は部分できた顎骨切除を行うべきでしょう。

 

第3前臼歯付近のメラノーマ

第3前臼歯よりも尾側にできた腫瘍は頭側にできた腫瘍に比べ、4.3倍も死亡率が上がります。

 

マージンの大切さ

マージン(腫瘍を完全に取り切ること)の話を先ほどからしていますが、このマージンが十分に取れているかいないかは非常に重要なことです。

というのも、

マージンが取りきれていなかった場合、マージンが十分取れた場合と比較して

3.6倍も腫瘍による死亡率が上昇することが分かっています。

マージン切除はとても大切なことなのです。

 

悪性メラノーマの場合、一般的に必要なマージンは2~3cmというデータがあります。しかし、口腔内にできるメラノーマでは正常組織といっても取れる範囲に限界があるので、このデータ通りの切除は難しいでしょう。

一般的には1~2cmでも十分であると言われています。

 

指にできたメラノーマでは腫瘍の近くから数個上の関節で断指するといいでしょう。

 

 

外科的切除した犬たちは…

外科的切除により顎を失った犬たちのQOLは口に大きな腫瘍を抱えていた手術前の状態に比べ、著しく上昇します。

ほとんどの犬はご飯もオペ後1~2日で元気良く食べ始めます。

指を切断した犬も、残りの指を上手に使い、元気に歩きます。

飼い主さんたちの満足度も高いです。

悪性メラノーマは大きく身体の一部を切除することになりますが、QOLを考えれば切除してあげる方が良いでしょう。 

 

 

放射線治療という選択肢】

口腔内メラノーマの治療法として、放射線治療は1つの治療戦略として考えられています。異論はありますが、一般的に口腔内メラノーマは放射線抵抗性の腫瘍とされていて、高線量のプロトコルを必要とします。

放射線治療ではしっかりと定められた少分割照射プロトコルがよく使われます。 

 

少分割照射法とは

通常の放射線治療プロトコルよりも一回当たりの線量を多く照射し、合計照射回数を少なくするという放射線治療プロトコルのことを言います。

 

少分割照射法のメリット

・少ない麻酔量

・低価格

・治療時間が短い

放射線による重篤な急性影響が少ない

 

少分割照射法のデメリット

放射線治療の効果が薄まる

・遅発性副作用が出現するリスクが上がる

 

治療効果

犬の口腔内メラノーマにおいて

部分寛解(PR)を示したもの:25~31%

完全寛解(CR)を示したもの:51~69%

何かしら反応を示したもの:82~94%

中央生存期間(余命みたいなもの):5.3~11.9ヶ月

ただこれらのデータは遡及的な研究、

つまり、

『このプロトコルでどんなデータが得られるかと“研究計画→実験→結果”によって研究されたもの』

ではなく

『結果がすでに出ていて、それを遡っていけばどのような治療がされていたかを調べる研究』

であるため、

実験者側が治療方法や治療期間設定できないため、バックグラウンドにデータ間で多少のバラツキができてしまいます。

そのため、結果はあくまでも目安として考えるべきでしょう。

 

放射線治療抗がん剤の併用は有効か?

放射線治療抗がん剤の併用が腫瘍の増殖を有意に抑えるうるかを多くの研究者が調べています。

結論としては、

放射線治療のみと放射線治療抗がん剤の併用治療で治療結果に大きな差は見られませんでした。

むしろ、抗がん剤を併用した犬では抗がん剤による副作用が多く見られたという報告があります。

 

1つだけ研究論文の結果を例にします。

『Murphy氏の遡及的な研究』

この研究では口腔内メラノーマを持っている28匹の犬に週1回 8Gy の放射線を4週 計 32Gy 照射しています。

15匹の犬には放射線治療に加え、21日おきにカルボプラチン300mg/m2 IV を行いました。

一方、残りの13匹の犬には抗がん剤治療を行いませんでした。

 

その結果、中央生存期間は

抗がん剤治療を併用した群:286日

放射線治療のみの群:307日

これら2つの群で有意な差は認められませんでした。

 

【引用文献】

『Oral malignant melanoma – the effect of coarse fractionation radiotherapy alone or with adjuvant carboplatin therapy』

 

放射線治療の予後因子とは

放射線治療を行うに当たって、以下の病変があるか無いかによって、放射線治療が成功するかの明暗を分けると言われています。

しかし、まだまだ議論が交わされている課題なので、鵜呑みにはできません。

 

放射線治療が成功するか

・骨破壊の有無

・腫瘍の大きさ

・血清VEGF(血管内皮成長因子)濃度 

  

放射線治療の副作用

放射線による副作用を紹介します。

・粘膜からの出血や潰瘍

・フケの増加

・皮膚の永久的な脱毛 

・骨壊死

放射線による新たな腫瘍の発生(※)

 

(※)放射線による新たな腫瘍とは

1)以前、放射線治療を行なった部位からの発生

2)最初に行なった放射線治療から十分に期間を空けてからの腫瘍の発生

3)前照射検査で骨は正常だったのに、骨由来の腫瘍ができた

4)組織学的に異なる腫瘍が新たに発生した

これらの条件が揃っている場合は再発ではなく、放射線照射が原因で起こった腫瘍と考えられるでしょう。

 

【化学療法】

抗がん剤

抗がん剤の使用は主に全身に抗腫瘍作用を与えるために用いられる治療法です。

口腔内メラノーマやKi-67高発現メラノーマは一般的に悪性度が高く、転移する確率も高いです。

転移を抑えるためにも全身的な治療は必要不可欠です。

 

メラノーマの抗がん剤に関するデータが以下になります。

・カルボプラチンで効果がある犬は28%

・シスプラチンで効果がある犬は18%

・そのほかの抗がん剤もほとんど効かない

 

これらのことから、メラノーマは抗がん剤に強い抵抗性を持っていることが分かっています。

 

COX-2阻害薬

COX-2とは炎症が起きるときに使われる酵素で、COX-2阻害薬とは非ステロイド系消炎剤として使われている薬です。

メラノーマ腫瘍細胞の増殖能や生存力とCOX-2の発現は正の相関があることが分かっています。

COX-2阻害薬の使用はメラノーマに対して有効である可能性があります。

 

【免疫療法】

・自家腫瘍細胞ワクチン

・遺伝子導入腫瘍細胞ワクチン(IL-2、GM-CSF、L-MTP-PE、FasリガンドDNA、抗サバイビン・Bcl-2遺伝子のsiRNA、CD40リガンドを持ったアデノ随伴ウイルス、など山ほどある)

・メラノソーム抗原を提示する樹状細胞ワクチン

 

これらの免疫療法がありますが、まだ実用化できるほど成熟した治療法では無いと思います。

実際、人で開発されたオプジーボのように、犬や猫でも同じものを作ろうと研究が進められていますが、現在治療法として確立されるのはありません。

しかし、腫瘍の免疫療法は非常にホットな研究テーマであり、そう遠くない将来にも実用化されると僕は思っています。

 

DNAワクチン

DNAワクチンとはペプチド抗原やタンパク質抗原をコードしているDNAやRNAを体内に接種し、それを抗原提示細胞に取り込ませ、腫瘍の抗原ペプチドを合成させようとするワクチンです。

メラノーマではチロシナーゼメラニン合成に関わる酵素であり、悪性のメラノーマではチロシナーゼの発現が過剰に起きていることが分かっています。

これを標的とした免疫療法ができれば、DNAワクチンが使えるようになるかもしれません。

 

f:id:otahukutan:20181108223023p:plain

 

【最後に】(全体のまとめ)

今回はメラノーマについて開設しました。

皮膚にできるメラノーマは比較的良性なことが多い、

一方で

口腔内、粘膜、爪床や肉球にできる腫瘍は悪性なことが多いです。

治療法としては外科的切除放射線治療が一般的です。

メラノーマは抗がん剤に抵抗性を持っているため、現時点では全身的な抗腫瘍的治療法がないです。

そのため今後、全身的な抗腫瘍的治療法を開発していくことが急務であると考えられます。

今注目の免疫療法や癌ワクチンが開発され、実用化される日が楽しみです。

炎症性腸疾患(IBD)

今回は『炎症性腸疾患』について説明します。

この疾患はtwitterで「解説してほしい」というリクエストを頂いた病気です。

明確な原因が分かっていないため、とてもポピュラーな疾患であるのにも関わらず、詳しく解説されていることは少ないです。

今回はIBDとは一体なんなのかについて詳しく説明できればと思います。

 

【目次】

 

IBDとは】

IBDとはInflammatory Bowel Diseaseの略で、日本語訳では『炎症性腸疾患』となります。腸管の繰り返す炎症や病理組織学的な炎症の状態から同定されます。

原因自体はよく分かっておらず、“特発性の腸炎という形で区分されています。

IBDどの炎症性細胞が中心となって腸の粘膜固有層に浸潤しているかで、さらに分類されています。

最も多いのが、リンパ球と形質細胞が中心となって浸潤するリンパ球・形質細胞性腸炎(Lymphocytic-plasmacytic enteritis【LPE】です。

その他に、好酸球腸炎(eosinophilic eneritis【EE】好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis【EGE】があります。

そして、たまにですが肉芽腫性腸炎好中球性腸炎があります。

 

まとめると、

リンパ球・形質細胞性腸炎(LPE)←ほとんどこれ

好酸球腸炎(EE)

好酸球性胃腸炎(EGE)

肉芽腫性腸炎

好中球性腸炎

 

f:id:otahukutan:20181104224857p:plain

 

【臨床徴候】

好発年齢:中年齢からみられ、時々若齢から症状が見られます。

 

性差:オス・メスでなりやすさは変わりません。 

 

好発犬種ジャーマン・シェパード、チャイニーズ・シャー・ぺイ

 

猫では慢性膵炎、リンパ球性胆管炎、IBD三重炎と呼ばれる複合疾患が存在します。

そのため、IBDだけでなく、膵炎や胆管炎なども同時に確認するべきです。

 

【症状】

一般的に特発性のIBDは慢性的な嘔吐や下痢を示します。

しかし、なぜそうなるのかはわかっていません。

そのほかに見られる症状をざっと挙げます。

 

IBDで見られる症状

・嘔吐:胆汁、食べ物、毛(猫)、草(犬)、血液

・小腸性下痢:大量に水っぽい、時に黒色便

・腸管の肥厚

・大腸性下痢:血便、粘ばっこい、頻回にトイレに行き、しぶる

・腹痛

・腸音の亢進

・体重減少

・食欲の変化:食欲亢進、食欲減退、草を食べる

・低蛋白血症:腹水、皮下水腫、胸水

 

発症リスクを上げる要因として、

ストレスや食べ物の変化、急性胃腸炎などがあります。

 

症状と炎症が起きている位置

症状と炎症が起きている位置は多少の相関があることが分かっています。

①嘔吐

嘔吐がは胃や小腸上部での炎症時によく見られます。

猫での嘔吐は小腸のIBDに顕著な症状です。

 

②体重減少

小腸性下痢に関与しています。

 

③大腸性下痢

初期の大腸炎小腸性下痢の延長として起こります。

 

④血液を含む嘔吐や下痢

重篤であることを示しています。特に好酸球腸炎好酸球性胃腸炎などでよく見られます。

重篤IBDでは他に体重の減少や、蛋白漏出性腸症による低蛋白血症や腹水の貯留などを認めます。

腹水がたまるとお腹がポヨンポヨンに膨らんできます。

 

⑤食欲

多食顕著な体重減少にも関わらず認められる。腸がやられてしまい、栄養が吸収できていないため、体重は減るが、もちろんお腹は空きます。

食欲不振重度の炎症で起きている時になります。

草を食べる:動物が草を食べる時は吐きたい時です。嘔吐を促すメカニズムがあります。

軽度な炎症の時は、食後に痛みを示すが、食欲自体は減りません。

 

f:id:otahukutan:20181104224916p:plain

 

【原因】

小動物のIBDがなぜ起こるのかはまだ解明されていません。しかし、人のIBDに類似していると言われています。

 

IBDのメカニズム(現段階の見解)

そこで考えられるIBDのメカニズムとしては、

腸粘膜バリアの崩壊や、免疫機構の調節不全、腸内細菌叢のバランスが崩れる

Toll様受容体(免疫反応を誘導する装置)がアップレギュレートされる

腸管内にいる抗原に過剰に反応してしまう

 ↓

これによりIBDになる

IBDでは杯細胞から分泌される粘膜保護に必要なトレフォイルペプチドや上皮成長因子などがダウンレギュレートされ、粘膜の修復を妨げる

また腸粘膜バリアが崩壊する

 

これらの悪循環によってIBDは慢性化します。 

 

f:id:otahukutan:20181104224852p:plain

 

IBDに関与する微生物

腸内フローラの崩壊によって悪さすると考えられている微生物

大腸菌

トキソプラズマ

・ヨーネ菌

・サッカロミセス属菌

 

IBDに関与する遺伝子

人のクローン病ではNOD2-CARD15遺伝子の変異があります。

クローン病とは人間版のIBDのことと解釈してもらえればと思います。

このNOD2-CARD15遺伝子は

・炎症を誘発する転写因子NF-kapper-Bを活性化させる

・これにより細菌に対する過剰な免疫反応が起きる

 

ジャーマン・シェパードではこのNOD2遺伝子が変異しており、TLR4Toll Like Receptor)TLR5エンコードしています。

つまり、前述したToll様受容体のアップレギュレートはここに関連しています。

 

【診断】

IBDの診断には内視鏡下での生検を行う必要があります。

採取したサンプルを見て、明らかな原因がわからなかった時に限り、IBDと診断がつくため、それまでにやらなければならないことがあります。

 それは除去診断です。

除去診断は臨床検査や画像診断を用いて行います。

除去すべき疾患

感染症

・食事反応性腸症

・抗菌薬反応性腸症

・腫瘍

・腸重積

・腸以外の疾患:膵炎 

 

一般血液検査

好中球の左方移動:たまに

好酸球増加好酸球腸炎好酸球性胃腸炎で時々

貧血:慢性腸炎や慢性の腸失血

 

生化学検査

IBD自体が何か顕著な変動を示すわけでは無いです。

ただ、全身状態や除去診断に生化学検査は使えます。

コレステロール血症:吸収不全、低Ca血症、低Mg血症

アルブミン血症:蛋白漏出性腸症を示唆し、予後不良の因子になる

酵素上昇:犬では腸炎に続発して肝障害が起こる。猫では肝酵素半減期は短いので、肝臓の原発性疾患を疑うべき

 

糞便検査

鉤虫、鞭虫、ジアルジア、そのほか細菌感染の除去診断に使用します。

便中α1-PIの上昇低蛋白血症便中カルプロテクチンの上昇よりも早期にIBDを疑える検査所見

便中カルプロテクチン腸炎の時に上昇する腸炎マーカーの1つです.

ただ、これらは実験や研究で使われているマーカーなので、現場ではやはり寄生虫や細菌の感染の除去が肝心です。

 

血清ビタミン濃度

IBDの時はビタミンDが低下します。

それは低カルシウム血症と関連しています。

そのほか、葉酸コバラミンも低下します。これは腸管の吸収不全によるものです。

IBDコバラミン血症はその度合いで組織障害の強さと予後がわかります。

葉酸は全身の代謝システムがどの程度できているかがわかります。

 

画像診断

X線検査

解剖学的な小腸の病変を見つけることはできますが、IBDを特定するのは困難です。

 

超音波検査

X線検査よりも優れています。

腸管壁の肥厚腸間膜リンパ節のFNAなどができます。

ただ、壁の肥厚は全てのIBDで見られるわけでは無いです。

 

腸管の生検

腸管の生検は内視鏡下で行われます。この検査はIBDを確定する上で必須の検査です。

しかし、問題点もあります。

内視鏡が小腸前半部分までしか届かないこと

採取できるサンプルがとても小さく、腸壁の表層のみで病理医ごとに診断のバラツキがあることです。

内視鏡で見たときの粘膜の紅斑や不整性、脆弱性などを主観的に評価する「WSAVA GI standardization Groupのスコアリングシステム」を用いることもあります。

多分あんまり使われている指標ではありませんが…笑

 

採取したサンプルを病理検査に出します。

検体によって、正常組織か軽度なLPEなのか?、重度のLPEかリンパ腫なのか?

これらの鑑別は困難です。

腸で炎症が起きていることを証明するには

・粘膜の損傷

・炎症細胞の重度浸潤

が見られなければなりません。

 

その他の検査法

・細胞診:精度は落ちるが、早いので現場ではたまに使う

・p-ANCA:好中球のアズール顆粒中のミエロペルオキシダーゼ。

・血清CRPの上昇:炎症時に上昇

・GIホルモンの上昇:消化管ホルモン。粘膜上皮に含まれているホルモン。

・腸管透過性の亢進

・血清3-BrY濃度の上昇

PCR:T細胞、B細胞のサブセットを明らかにし、リンパ腫の除去ができる

こんなものもあるんだ程度でいいでしょう。

ほとんど使いません笑

 

診断方法のまとめ←ここだけでも読んで(笑)

長々と書きましたが

IBDの診断は基本的に

除去診断(血検、画像診断、糞便検査)

内視鏡下での生検で腸炎を確認

原因不明の腸炎としてIBDとする

 

でオッケーです!

 

【治療法】

IBDの治療法としては

抗菌作用を考慮した食事の改善

免疫抑制

です。

ただ、その前に段階を踏む必要があります。

免疫抑制をかける前に、炎症の原因を除去するという意味で。

駆虫薬、除去食、抗菌薬といった試験的治療に反応しないことを確認しておくべきです。

 

食事療法

抗原制限食や単一蛋白食は食事反応性の腸炎の可能性を除去する、腸粘膜の炎症を抑えるといった意味でも効果的です。

こういった食事療法を一度試してみることはIBDの場合だけでなく、全ての腸炎で行うべきと推奨されています。

 

特に加水分解食はおすすめです。

加水分解食とはアレルギーや腸炎の原因となる抗原タンパク質を分解してしまい、アミノ酸にすることで、抗原として働かないようにしたものです。

おすすめの理由

①単純に消化に良い食べ物だから

②炎症を誘導するサイトカインが出にくくなるから

 

抗菌薬の投与

抗菌薬の投与はIBDではよく使われます。

その理由としては、

・腸内細菌の異常増殖を抑えるため

・細菌の抗原がIBDの病原性として重要であり、それを防ぐため

です。

 

人のIBDではよく

プレドニゾロン免疫抑制剤)+メトロニダゾールorフルオロキノロン

を使用します。

小動物ではメトロニダゾール(フラジール®️)がよく使用されます。

 

余談ですが、

メトロニダゾール(フラジール®️)は実は意味ないのではないかなんても言われています。というのも、メトロニダゾールは細胞免疫を抑制するので、抗菌作用を示さないのではないかということです。

ただこれはあくまで噂程度なので気にしなくも大丈夫です(笑)

 

免疫抑制剤

特発性のIBDは免疫反応が過剰になることで、腸炎を引き起こしていることがほとんどなので、免疫抑制をかけることは大切なことです。

でも、副作用や続発疾患を考慮し、免疫抑制剤は最後の手段として使われるべきでしょう。

 

プレドニゾロン

プレドニゾロンステロイド薬で免疫を抑制することで炎症を抑える強力な薬です。

ステロイド薬を処方される時、必ず説明を受けると思いますが、

ステロイド薬は副作用が強力です。

副作用としては

・医原性副腎皮質機能亢進症

・筋萎縮

があります。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)についてはこちらを参考にして下さい↓

otahukutan.hatenablog.jp

 

プレドニゾロンを処方する時はこういった副作用の程度と症状の改善具合を見て、量を調節していきます。

重度のIBDの場合、

1-2mg/kg BID(1日2回) を2~4週間

徐々に減らす

1~2mg/kg SID(1日1回)を3~4週間

徐々に減らす

最終的にプレドニゾロンを打ち切るか、2日に1回の投与で治療効果のある限界量まで減らしていくべきでしょう。

 

ブデゾニド

人のクローン病で使われている薬ですが、腸管から吸収されて肝臓で代謝されるステロイド薬です。

この薬の最大の特徴は肝臓で90%が代謝されるので、全身的な副作用が出にくいということです。

しかし、犬ではその特徴が十分活かせるかがまだ分かっていないので、犬ではプレドニゾロンを使うことが多いです。

猫ではブデゾニドが効果的と言われています。

 

細胞障害性薬物

プレドニゾロンと併用し、ステロイド薬の作用を補助する意味で使われています。

 

クロラムブシル+プレドニゾロン

犬、猫両方で用いられ、効果的だと言われています。 

 

アザチオプリン(イムラン®️)プレドニゾロン

アザチオプリンはアデノシンとグアニンの合成を阻害する代謝拮抗薬です。

効果が遅く、投薬から3週間ほど必要になります。また、骨髄抑制の素因でもあるので、血液検査を行い頻繁に管理していく必要があります。

長期投薬では肝酵素の上昇が認められるため、肝庇護薬などを併用するべきでしょう。

また、猫での使用は禁忌です。

猫ではチオメチルトランスフェラーゼ(TPMT)と呼ばれるアザチオプリンを分解する代謝酵素の活性が弱いため、薬剤が蓄積して毒性を示します。

 

シクロスポリン(シクロキャップ®️)+プレドニゾロン

シクロスポリンはアザチオプリンと比べてやや高価な薬です。

シクロスポリンの作用としてカルシニューリン阻害というものがあり、T細胞の増殖を抑えることで免疫反応を抑えます。

また、プレドニゾロンなどのステロイド薬はP糖蛋白と呼ばれる薬剤排出機構をもつタンパク質を細胞で増やします。

これが起きるとステロイド薬の効きが悪くなります。

ところが、シクロスポリンはこのP糖蛋白に蓋をする作用もあるため、ステロイド薬に抵抗性を持ち始めた腸炎にも有効的に作用します。

 

新しい治療法?使えるかは未解明

TNF-α標的薬サリドマイドやペントキシフィリン←米国の人医療で使用

オクラシチニブ(アポキル®️)アトピーなどで使う薬

便細菌移植(FMT):健康な腸内細菌を移植する方法。人ではクロストリジウム・ディフィシル腸炎でのみ証明されていて、今実験中。

腸移植:豚と人ではやられているが、、、さすがにそこまでは(笑)

 

f:id:otahukutan:20181104224849p:plain

 

【最後に】

今回はIBDについて説明しました。

IBDとは特発性の腸炎で原因がはっきりと解明されていない難病です。

そのため、しっかりと下痢・嘔吐を示す可能性のある疾患を除去し、内視鏡生検を行って診断しましょう。

治療としては抗菌薬投与(メトロニダゾール)とステロイド薬(プレドニゾロン、ブデゾニド)を処方していきます。

そして、症状を見ながら、追加で免疫抑制剤(クロラムブシル、シクロスポリン)ステロイド薬の投与量の調節を行っていくといいでしょう。

 

表在性膿皮症

今回は『表在性膿皮症』について説明します。

膿皮症には“表在性”と“深在性”の2つがあります。

表在性膿皮症とは皮膚表面に常在している細菌(主にブドウ球菌)が表皮や毛包などに侵入して発症する感染症です。

 

【目次】

 

【原因】

表在性膿皮症は皮膚常在菌による感染です。

ということは皮膚バリアの崩壊が起こっているということです。

表在性膿皮症の原因を探るには皮膚バリアを崩壊させる原因を考える必要があります。

 

皮膚バリアを崩壊させる原因は山ほどあります。

とりあえず、ざっと原因を挙げてから重要なものだけ簡単に説明したいと思います。

 

皮膚バリアを崩壊させる原因

・分泌腺の異常:多汗や脂漏症

・毛包構造の異常:カラーダイリューション脱毛症、黒色被毛毛包形成異常症

・毛包感染症:ニキビダニ、皮膚糸状菌

・アレルギー性皮膚炎:アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎

・栄養不良、内分泌失調

・医原性:ステロイド剤の使用抗がん剤

・外傷、熱傷、咬傷

・環境:梅雨時期などの高温多湿

 

 

結構見られるのが、アトピー性皮膚炎になった犬が膿皮症を続発するパターンです。

アトピー性皮膚炎になった犬の皮膚では

・皮膚の保水力の低下

・掻爬による表皮の剥離

ステロイド薬の使用

など、表皮の免疫力を低下させる原因が盛りだくさんです。

詳しい解説はこちらへ↓↓

otahukutan.hatenablog.jp

 

【原因となる病原菌】

表在性膿皮症で多く見られる原因菌は

Staphylococcus.pseudintermediusというブドウ球菌の一種です。

この原因菌は皮膚や毛包に常在しています。

 

病原因子として

・コアグラーゼ:血液凝固作用をもつ

プロテインA:抗体のFc領域に結合し、抗体の力を奪う

・表皮剥脱毒素(ET):表皮細胞をつなぐ接着分子を攻撃する

・エンテロトキシン:細菌が産生する毒素で様々な病変を引き起こす

 

その他の病原体

S.schleiferiS.aureusなどがあります。

また猫では掻くよりも舐めること(グルーミング)の方が多いので、口腔内に存在するPasteullaレンサ球菌も原因になることがあります。

 

【発症しやすい年齢、時期、犬種】

年齢

どの年齢でもなりえますが、

若齢ではアトピー発症犬で、

高齢ではステロイド剤や抗がん剤治療中の犬で注意が必要です。

 

時期

梅雨や秋雨の時期に注意が必要です。高温多湿になる程、発症率は上がります。

 

犬種

ブルドッグ系(フレブルやイングリッシュ・ブル)

ヨークシャー・テリア

・M・シュナウザー

シーズー

・パグ

アメリカン・コッカー・スパニエル

・M・ダックス

・M・ピンシャー

・チワワ

マルチーズ

ゴールデン・レトリバー

など、たくさんですね笑

印象としては毛が長い犬種や短頭種などで多いかなと思いました。

しかし、基本的に犬アトピー性皮膚炎が原因でなることがほとんどなので、やはり犬アトピー性皮膚炎発症犬では注意が必要です。

 

【症状】

表在性膿皮症の特徴的な症状として、

痒み体幹部にできる発疹が挙げられます。 

 

発疹には大きく分けて4つの外見上の違いがあります。

 それぞれについて簡単に説明していきます。

①表皮小環

表皮小環とは径1cm程度の円形脱毛とその周囲に白〜黄色のフケが付いたものです。

<表皮小環のでき方>

ニキビのように白い膿が皮下に溜まる

→膿は潰れてカサブタになる

カサブタがめくれて円形の脱毛のその周囲にフケが残る

こういった流れで、表皮小環はできます。

 

②毛穴に一致した膿

まさにニキビのようなものが見えます。

このように見える原因としては毛包内に細菌感染が起こり、その部分が化膿して、膿となっているためです。

 

③円形の脱毛

これは②に続発して起こるものですが、毛包に感染が起こるため、その部分の毛が抜けてしまいます。

細菌感染巣はある程度まとまった毛穴で感染するため、円形の脱毛として見えてしますのです。

 

④毛穴に一致しない膿

皮下で感染が起きていて、膿が皮下にある場合、毛穴に一致しない膿疱が見えます。

 

【診断】

 表在性膿皮症は皮膚常在菌による感染症であるため、やるべきことは細菌感染の証明です。

細菌の感染を証明するために必要なことは細胞診です。

細胞診とは、発疹を示している場所に綿棒を擦り付け、顕微鏡で何が含まれているかを調べる検査です。

 

これが見られたら細菌感染を疑う

膿皮症はブドウ球菌が原因であることが多いです。

そのため、細胞診で見られる像はぶどう房状の球菌好中球の浸潤です。

・ぶどう房状の球菌:ブドウ球菌がいることを示す像

・好中球の浸潤:細菌を倒すために動員される免疫細胞。化膿を示す像。

ポイントとしては球菌が見えることです。 

 

 球菌が見えないけど、好中球の浸潤があるという場合はそのほかの皮膚病が疑われるため、皮膚の生検(皮膚を径5~10mmでくり抜く検査で局所麻酔下で行う)を行う必要があります。

 

細菌の正体を知る

これは細菌感染を治療していく上で、どんな病気でも重要なことですが、感染症を起こしている細菌は何者なのかを知っておくことは大事です。

なぜなら、細菌を知らなければ、倒すべき相手の弱点や性質を知り得ません。つまり、致命的な攻撃を効率的に行うことができず、病気が長引く原因に繋がるからです。

 

正体を知るにはPCRが必須です。

検査したい細菌だけが持つ特定のDNAを増幅し、そのDNAを見つける検査です。

これは外注検査になるため、ちょっと時間がかかります。

しかし、必要な検査です。これを怠れば慢性化に繋がります。

 

細菌の弱点を知る

薬物感受性試験というものがあります。

これはPCR法により細菌を特定した後に行う検査で、どんな抗生物質が有効かを調べる検査です。

これもまた日数がかかってしまうのですが、とても重要な検査です。

「痒がっていて、可哀想だから早く治療してよ!」と思われる飼い主さんは多いですが、この検査を行わないまま抗菌薬の投与を開始すると、薬が効かないあるいは耐性菌ができるなど、後から悪いことしか起こりません。

 

有効な抗生物質を調べないまま、「とりあえずこの抗菌薬(セファレキシン)、ダメなら他の抗菌薬で試す」というやり方を行う獣医はヤブ医者、というか何も後のことを考えていない獣医という認識をしてください。

 

膿皮症は続発疾患!原因を見抜く

今まで、膿皮症について説明してきて理解して頂けると思いますが、膿皮症の原因は何らかの皮膚トラブルにより皮膚バリアが崩壊したことで常在菌によって引き起こされる感染症です。

つまり、皮膚トラブルの発見が膿皮症の根治に繋がるのです。

皮膚トラブルの原因となる病気に関しては

【原因】で網羅しているので、もう一度振り返って見てください。

 

【治療】

最初は外用抗菌療法

表在性膿皮症は細菌感染が表面に限局して存在しています。

表在性膿皮症の治療では外用抗菌療法を中心に治療を進めていきます。

なぜなら後述しますが、全身投与できる経口抗菌薬あるいは静脈投与抗菌薬は高い効果を発揮する反面で、耐性菌の発生が問題になります。

こういったわけで表在性膿皮症の治療戦略としては第一選択に外用抗菌療法を選ぶべきです。

 

具体的な外用抗菌剤について話します。

外用抗菌剤とはイメージとしては殺菌・抗菌作用が添加されたシャンプーやローションクリームのことです。

 

外用薬で使われる薬品名

クロルヘキシジングラム陽性菌に有効、グラム陰性菌はやや抵抗性あり

ピロクトンオラミン:カビ、酵母などの真菌に有効、細菌にも有効

オラネキシジン:クロルヘキシジンと同様の効果、粘膜への使用は不可

ムロピシン:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)に有効

 

上から3つの薬品は耐性菌ができにくく、長期間使用することができます。

しかし、ムロピシンだけは反復使用で耐性菌が発生する恐れがあるので注意が必要です。

 

皮膚バリアの回復

もともと表在性膿皮症の感染細菌は皮膚の常在菌です。

これは皮膚表面が荒れたりして、皮膚バリアが崩壊したことで感染が起きています。

病気を治すためには、この皮膚バリアを回復させることが不可欠です。

先ほどの外用抗菌療法でシャンプーを行なった後、保湿クリームなどを塗って皮膚の荒れを抑えてあげる必要があります。

 

発症原因の治療

ここでいう発症原因とは皮膚バリアを崩壊させた原因ということです。

 

 ↓↓原因で紹介した病気です(上述のコピペ)

皮膚バリアを崩壊させる原因

・分泌腺の異常:多汗や脂漏症

・毛包構造の異常:カラーダイリューション脱毛症、黒色被毛毛包形成異常症

・毛包感染症:ニキビダニ、皮膚糸状菌

・アレルギー性皮膚炎:アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎

・栄養不良、内分泌失調

・医原性:ステロイド剤の使用抗がん剤

・外傷、熱傷、咬傷

・環境:梅雨時期などの高温多湿

 

これらの病気を特定し、それに特化した治療を行うことで根本治癒を目指します。

 

避けたい全身抗菌薬投与

内服や静脈注射による抗菌薬の投与は非常に有効性がある反面、耐性菌ができてしまう恐れがあります。

特に表在性膿皮症の場合、細菌感染が常在菌であるため常在菌に耐性ができると最悪です。

耐性菌の発生を防ぐには

・薬剤感受性試験を必ず行う

・外用抗菌療法との併用して行う

・症状が収まってからも、1〜2週間は投与する

・痒くてもステロイドは使用しない

 

これらのことを守って耐性菌が生まれないように注意しましょう。

 

【最後に】

今回は表在性膿皮症について説明しました。

この病気は何らかの病気によって皮膚バリアが崩壊したり、免疫力が低下した時に起こる細菌感染症です。

隠れている根源を見つけ、治療を行うことが膿皮症の根本治癒へと繋がります。

 

 

犬の口臭で考えられること(歯周病メイン)

今回は犬の口臭がする時に考えられる疾患について説明していこうと思います。

強い口臭の裏には病気が隠れている場合があります。

口臭の9割は口腔内疾患が原因と言われています。そして、中でも歯周病が原因であることがほとんどです。

今回は歯周病を中心に、その他で考えられる口臭について話していきます。

ちなみに、相談部屋の方では問診形式で病気を探せるようにした記事があります。

こちらも合わせて読んでみて下さい↓↓

otahukutan1.hatenablog.jp

 

 

【目次】

 

【口臭の分類】

口臭には大きく分けて2つに分類できます。生理的口臭病的口臭です。

生理的口臭

生理的口臭は病気ではなく、口腔内で起こる腐敗の過程による悪臭です。ほとんどの原因は歯垢によるものです。

人の場合、朝起きた時の口臭がそれに該当します。

感覚的にご理解されると思いますが、生理的口臭の場合、日常の歯磨きなどですぐに解消されます。

 

病的口臭

病的口臭についてはこれからメインにお話ししていきますが、病的口臭を示すこと=何か口臭が隠れているということが考えられます。

f:id:otahukutan:20181027123838p:plain

 

 

【口臭の原因】

口臭がするという人の90%は口に何らかのトラブルを抱えているということが分かっています。

口臭の発生源でもっとも多いのものは歯周病です。

 

歯周病

歯周病には2つのステージがあります。

歯肉炎と歯周炎です。

 

歯肉炎とは

歯肉炎とは歯垢にいる微生物に感染し、歯肉に限局した炎症を言います。

この時点では歯根膜(歯周靭帯)と歯槽骨には炎症は波及していません。

歯肉感染は歯垢にいる細菌から始まり、もしこの段階で歯科予防や正しいホームケアメンテナンスを行えば、回復することができます。

 

歯肉炎の始まり

歯肉炎を引き起こす原因細菌は嫌気性菌で最初は低病原性のものです。

歯肉炎が酷くなるにつれて、細菌数は増加し、病原性の強いポルフィロモナス属菌などが増えていきます。

人では歯周病の原因菌としてポルフィロモナス・ジンバリスが有名ですが、

犬の歯周病の原因菌はポルフィロモナス・グラエが有名です。

これらは口腔内に常在した細菌で、乳酸やギ酸、コハク酸といった酸性物質を作ることで歯肉炎を引き起こします。

 

歯周炎とは

歯周炎は歯肉炎の次のステージを指します。歯周炎は微生物によって炎症が歯根膜や歯槽骨などの歯を支える構造にまで波及した状態のことを言います。この状態になると歯自体を回復することは不可能になってきます。

 

歯周病が発症する最初の原因はプラークが歯に付着することから始まります。

f:id:otahukutan:20181027123902p:plain

 

 

プラーク歯垢)について】

プラークとは

プラークバイオフィルムの1つと考えられています。

唾液中に含まれる糖蛋白や細胞外多糖類の複合体に細菌が絡みつくことでバイオフィルムを形成しています。

バイオフィルムとは細菌同士がネバネバとくっつき、塊となったものです。シンクなどにピンク色のヌルヌルした膜ができることがあります。それもバイオフィルムです。

バイオフィルムを形成した細菌塊は物理的に破壊しない限り、抗菌薬なども効きません。そのため、日々の歯磨きはとても重要になってきます。

 

プラークのでき方

まず最初に歯の表面に唾液中に含まれている糖蛋白が薄い膜を張ります。

この膜自体は多くの蛋白質を含んだ唾液由来の薄い層で、酵素の他、細菌が付着するための場所として働く分子を含んでいます。

歯科予防を行った瞬間(文献では10億分の1秒後と表現されている)に作られるため、この膜に関してはほぼ予防は不可能です。

 

プラークはこの膜に細菌が付着した瞬間にでき始めます。

 

プラークが作られるには24時間かかります。これはつまり、1日でプラークが作られるということです。

また、プラークは完成後4日間成長し続けます。

f:id:otahukutan:20181027124003p:plain

 

プラーク内の細菌

健康な犬の口腔内には嫌気性菌が25%しかいません。しかし、プラークが4日間取り除かれずに成長すると、口腔内の細菌は好気性菌から嫌気性菌へと細菌フローラの変換が起こります。嫌気性菌への変換は歯肉炎の始まりを意味しています。
 

【なぜ歯周病で息が臭くなるのか】

歯肉炎や歯周炎に関連する細菌のほとんどはグラム陰性嫌気性菌であり、揮発性硫黄化合物(VSC)を産生することが知られています。

VSC自体は生ゴミ臭い口臭を発する原因となりますが、これは生理的口臭に分類されます。

VSCが問題となるのは以下のことです。

 

口腔内のVCSレベルは歯周ポケットの深さと正の相関関係にあります。

これは深いポケットほど、嫌気性菌の割合が高く、多くの細菌を含んでいるということです。

息に含まれるVSCの量は、歯周ポケットの数、深さ、出血傾向に伴って増加します。

また、VSCは歯周炎の進行を直接的に加速させます。

歯周ポケットが深くなるとポケットの深部では酸素が行き届かなく、低酸素環境になります。

低酸素環境はアミノ酸(リジン・オルニチン)の脱酸化とpHの低下を招き、カダベリンプトレシンという異臭物質を産生します。

 

カダベリン:リジンが脱炭酸されたもので、死臭のような匂いを発します

プトレシン:オルニチンが脱炭酸されたもので、同様に死臭がします 

 

【口腔疾患由来の口臭(歯周病以外で)】

口腔疾患由来の口臭のほとんどが歯周病が原因ですが、そのほかの原因について考えていきたいと思います。

考えられる原因としては口腔内の感染症疾患、潰瘍、腫瘍、異物があります。口の中に口内炎や出血、デキモノが無いかを見てみましょう!

 

【口臭と勘違いしている口臭】

飼い主さんが口臭と勘違いしている場合もあります。

それは短頭種やスパニエル種、ウォータードッグでみられるまわりのシワが原因で起こっている間擦疹です。

間擦疹とはシワの間が擦れて、皮膚バリアが崩壊したことで細菌や酵母菌が過剰に増殖してしまったものです。 

口周りのシワに脱毛や発赤、フケなどが溜まっていないか見てみましょう!

 

【気道由来の口臭】

鼻腔 

鼻腔内の感染症は口腔内のそれと比べて、より強い悪臭を放つことが知られています。

いわゆる蓄膿症」ですね!

副鼻腔内に膿が溜まることで蓄膿症が起こります。副鼻腔炎歯周病から続発する可能性もあるため、歯周病が無いかも確認しておきましょう。

 

扁桃

扁桃に関しては人間の場合なので、多少動物との不一致はありますが、扁桃の病気が口臭に関係しているとも言われています。

悪臭を発する可能性がある扁桃の病気

慢性乾酪様扁桃炎、扁桃結石、そして可能性は低いですが、扁桃周囲膿瘍、アクチノマイシス感染症、菌状発育性あるいはその他の腫瘍なども可能性としては挙げられます。

 

気管と肺

呼吸器疾患由来の口臭の場合は慢性気管支炎、気管支拡張症があります。

気管支拡張症は気管の拡張や気道内で粘液・細胞成分の蓄積が起こるような慢性的な気道疾患の結果生じます。

一般的に慢性気管支炎や慢性気管支肺炎を患っている動物で見られます。

 

【消化管由来の口臭】

胃・食道

巨大食道症は食道に限局した拡張と蠕動運動の低下による病気です。

口臭は吐き戻し、体重減少、発咳を伴う巨大食道症の一般的な臨床徴候です。

口以外の消化器疾患から発生する口臭はレアです。

しかし、ヘリコバクターピロリ胃食道逆流疾患では口臭が報告されています。

 

【全身状態悪化に伴う口臭】

口臭を引き起こす全身疾患の鑑別診断リストには糖尿病、尿路感染、腎障害、肝疾患、癌です。

しかし、そのような全身疾患を患っている患者は一般的に口臭以外に診断に決定的な症状を示します。

 

糖尿病 

糖尿病はインスリン分泌、インスリンの活性化またはその両方の破綻により生じる病気で、慢性的な高血糖状態によって発見される代謝性疾患です。

インスリンの欠如あるいは活性化の低下は脂肪分解をうまくできず、血漿での遊離脂肪酸値の上昇を導きます。

糖尿病の進行によって、末期では糖を利用できず代わりにケトン体が合成され、エネルギー産生へと使われます。

ケトン体の自然崩壊産物はアセトンと呼ばれ、肺から吐き出されます。

アセトンは特有の悪臭となり、「腐ったリンゴ」とも言われます。

 

糖尿病に関する詳しい解説は↓↓

otahukutan.hatenablog.jp

 

腎臓疾患

腎機能の低下(尿毒症)は血液中の尿酸値を上昇させ、アンモニア臭をした息を排出させます。

これは魚臭い」と説明されています。

腎障害を隠れた原因を十分に調べるためには画像診断や血液検査、時に腎生検を行います。

 

慢性腎臓病に関する詳しい解説は↓↓

otahukutan.hatenablog.jp

 

末期の肝疾患

肝臓ではアンモニア尿素に変化し、腎臓から尿と一緒にアンモニアを排出する機能を持っています。

肝硬変を伴うような肝不全は尿素へ変換することができなくなるため、血液中にアンモニアの蓄積を引き起こします。

肝性口臭は肝疾患をもつ人で特有の臭い息です。

この口臭は肝臓代謝の欠損によって血液や尿に蓄積された揮発性のアロマ物質が原因です。

これは肝障害では末期の症状で、肝性脳症の臨床的特徴とも言えます。

肝疾患末期に起こる悪臭は甘い臭い匂いで、時々「死んだネズミ」という表現がされます。

 

【最後に】

口臭について解説致しました。

口臭のほとんどは歯周病です。

その他考えられる原因について説明しました。

歯周病以外の口腔疾患

・鼻腔内疾患

扁桃や気管、肺の疾患

・消化管疾患

・糖尿病、腎疾患、肝疾患

特に最後に紹介した全身症状悪化に伴う口臭は口臭単体で出ることはまず無いと考えていいでしょう。それまでに何らかの疾患があった延長にみられるというイメージです。

 

 

高齢猫に多い、甲状腺機能亢進症

今回は甲状腺機能亢進症』について説明します。

甲状腺機能亢進症とは甲状腺から出る甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、身体に異常に起きてしまう疾患です。

犬よりも猫に多いです。

甲状腺がどのような役割をしているのか、そして甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるとどのような病態になるかをお話できればと思います。

 

【目次】

 

甲状腺ホルモンとは】

甲状腺の司令塔

視床下部という間脳に下に存在する中枢からTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体に送られます。

そのTRHを受け取った下垂体はTSH(甲状腺刺激ホルモン)甲状腺へ送ります。

そしてTSHを受け取った甲状腺甲状腺ホルモン(T3やT4)の合成を開始します。

甲状腺ホルモンが十分作られていると、視床下部や下垂体にもう作らなくていいという指令が送られます。これをネガティブフィードバックと言います。

 

f:id:otahukutan:20181015192040p:plain

甲状腺ホルモンの作り方

甲状腺ホルモンは甲状腺で作られています。

甲状腺で合成されるTG(サイログロブリン)のチロシン基にヨードが結合することで、甲状腺ホルモンは産生されます。

そして、作られた甲状腺ホルモンは血液中に放出されます。

甲状腺ホルモンにはT3とT4という2種類のタイプが存在します。

T3:いろんな臓器(肝臓・腎臓・筋肉)で作られる

T4:甲状腺でしか作られない

これらの性質を利用して、甲状腺の疾患を疑う場合は血中T4の検査を行うことが多いです。 

 

f:id:otahukutan:20181015193531p:plain

甲状腺ホルモンの働き

甲状腺の基本的な役割は『生体の代謝を活発にする』ことです。

甲状腺ホルモンはどんな臓器や組織にも影響を与えており、非常に大切なホルモンです。

体温の維持、蛋白や酵素の合成、炭水化物や脂質の代謝などに重要です。

 

各臓器での甲状腺ホルモンの役割

心臓:心拍数↑、心収縮の増強など

血液系:赤血球産生(血を作る)

骨格系:骨形成と骨吸収のサイクルを維持(骨が常に作り変えられ、新鮮)

胎仔期:神経や骨格を作る

 

甲状腺機能亢進症の概要】

 甲状腺機能亢進症とは文字通り、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されたことで生じる病気で、内分泌疾患です。

高齢(8歳以上)の猫でもっともよく見られます。

一方で、犬での発生は少ないです。

雌雄で性差はないです。

 

甲状腺機能亢進症の原因】

 一般的な原因は甲状腺の過形成および腫瘍です。

※過形成とは腫瘍ほど悪性の挙動を示しさないが、細胞が増殖したもの

 

腫瘍化した甲状腺からは視床下部や下垂体からの司令無しに甲状腺ホルモンの産生を行い、ネガティブフィードバックもガン無視して、産生します。

こういったホルモンなどの分泌能を持った細胞が腫瘍化したものを機能性腫瘍』と言います。

機能性腫瘍は良性腫瘍でも体にとっては有害であることがあるので、注意してください!!

 

f:id:otahukutan:20181015194954p:plain

甲状腺腫瘍のできる場所】

ほとんどは片側性にできます。

※片側性:甲状腺は気管付近に対に存在しているが、片方だけ腫瘍化すること

 

腫瘍の比率

対称性腫大:10~15%

片側性腫大:85~90%

 

甲状腺機能亢進症の症状】

甲状腺機能亢進症の症状は甲状腺ホルモンが過剰に出ることで現れる症状です。甲状腺ホルモンは『代謝を活発にする』ホルモンです。つまり、代謝が活発化することで見られる症状がほとんどです。

よく見られる症状6つ

①体重が減る

食べても食べても代謝が活発になるため、体重が減っていきます。脂肪分解が促進され、中性脂肪が減少していきます。

 

②たくさん食べる

エネルギー代謝が増大するので、お腹がすぐに空きます。結果、たくさん食べるようになります。

 

③性格の変化

交感神経の感受性をあげてしまうため、興奮状態が持続してしまいます。

興奮状態の持続によって見られる性格の変化

・落ち着きがない

・活動的になる

・凶暴性が増す

などが挙げられます。

 

④被毛の変化

過剰なグルーミング毛のサイクルが狂うことで、脱毛が起こります。

 

⑤多飲・多尿

心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌が亢進し、NaやKの排泄が促進され、利尿作用を示すため、尿がたくさん出る同時に、喉が乾くためたくさん水を飲むようになる。

 

⑥嘔吐や下痢

嘔吐:粘膜のターンオーバーの亢進

下痢:胃腸管運動の亢進

 

起こりうる合併症

肥大型心筋症

甲状腺ホルモンの作用によって心臓はβアドレナリン受容体の数が増加し、心拍数、新収縮力が増強されています。これが長期間持続することで、負担になり、心筋症を定するようになります。

 

全身性高血圧

これも、心筋症同様で心臓に負担がかかっているために発生します。

 

甲状腺機能亢進症の検査】

触診

首にできた甲状腺腫瘍は9割が触ることができます。

 

聴診

心拍数がかなり多く、頻脈になっています。

 

血液検査

①一般(CBC

多くの場合正常ですが、血液の活発な産生などによってPCVの上昇が見られることがあります。

 

②生化学検査

・ALPの上昇(75%):猫のALPは半減期が短いため、上昇しにくいですが、甲状腺機能亢進症の時はほとんどの場合上昇しています。

 

・AST・ALTの上昇(75%):肝酵素のマーカーです。

 

・BUN・Creの上昇:治療前は多飲多尿によって、腎機能障害が露呈していなくても、治療を開始してくると多飲多尿が抑えられ、実は腎機能障害があったなんて場合があります。

 

・血清T4・fT4濃度測定:T4のほとんどは甲状腺で産生されるため、T4の測定は甲状腺機能亢進症を診断するのに非常に便利です。

T4の中でもfT4(フリーT4)はより正確に診断できるとされています。

 

尿検査

甲状腺機能亢進症の症状は糖尿病の症状とよく似ているため、糖尿病を除去するという意味で尿検査を行います。

猫の糖尿病については→こちら

 

甲状腺機能亢進症の診断

臨床症状、頸部の腫脹、T4あるいはfT4の上昇で診断していく場合がほとんどです。

 

甲状腺機能亢進症の治療法】

外科的切除

外科的切除は根治治療として用いられる治療法ですが、いきなり切除するのは危険です。というのも甲状腺ホルモンが過剰に出ていたことで、腎不全が顕在化してなかった場合があるからです。

術後に隠れていた腎不全の症状が現れるなんてこともあります。

そのためにも次で説明するチアマゾールを4~8週間投与して、ある程度甲状腺ホルモン量を減量した後に切除を行うべきです。

 

甲状腺

日本では主にチアマゾール(メルカゾール®️)を使用します。

チアマゾールは甲状腺内にあるサイログロブリンヨウ素を取り込むのを阻害し、甲状腺ホルモンの合成を抑制するといった薬です。

詳しい作用や副作用については→『オタ福のお薬手帳』にて書いてますので、参考にしてみて下さい。

 

放射線ヨウ素療法←日本では未認可

ヨウ素同位体である放射線ヨウ素を用いた治療法です。

甲状腺ヨウ素を集める性質があります。この性質を利用して、放射線ヨウ素甲状腺に集め、甲状腺細胞を破壊しようという方法です。

侵襲度(身体への負担)も低く、副作用も少ないため、非常に優れた治療法です。

日本では法律の関係上、まだ使用することはできません。

 

食事療法 

ヨウ素の含有量を少なくした療法食です。

ヨウ素の摂取量を制限することで、甲状腺ホルモンの産生量に限界値を設け、産生量を減らそうとする方法です。

ヨウ素制限食といえば、ヒルズ・コルゲート社のy/dが有名です↓↓

 

 

【さいごに】

甲状腺機能亢進症について説明しました。

甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンが過剰にでることで症状を示します。

その原因のほとんどは甲状腺の過形成あるいは腫瘍です。

治療法としては外科的切除や抗甲状腺薬、食事療法など、状況に応じて使い分けることになるでしょう。

 

犬の乳腺腫瘍

 

【目次】

 

【乳腺腫瘍の統計】

発生率

良性腫瘍の好発年齢:7~9歳

悪性腫瘍の好発年齢:9~11歳

 

好発犬種スパニエル種、プードル、ダックスフンド

低発犬種:コリー、ボクサー

 

大型犬と小型犬

大型犬と小型犬で良性腫瘍と悪性腫瘍の比率を調べた実験があります。

大型犬の場合、乳腺腫瘍のうち良性腫瘍が42%で悪性腫瘍が58%のに対し、

小型犬の場合、乳腺腫瘍のうち良性腫瘍が75%で悪性腫瘍が25%でした。

大型犬の方が悪性の乳腺腫瘍が発生しやすいということが分かっています。

 

f:id:otahukutan:20181012164249p:plain

 

避妊手術との関係

犬の乳腺腫瘍はホルモン依存性です。

若齢での避妊手術が乳腺腫瘍の発生率を著しく下げることが分かっています。

避妊手術と発生リスク(※未避妊手術雌との比較)

初回発情前に避妊手術:発生率 0.05%

初回発情後に避妊手術:発生率 8%

発情2回目以降に避妊手術:発生率 26%

2回目の発情が来るまでに避妊手術を行うと乳腺腫瘍の予防効果があります。

 

f:id:otahukutan:20181012165723p:plain

上の図は避妊手術をしていない群と比較しているので、『避妊手術せず群』を発生リスク100%としています。

 

プロジェステロン受容体とエストロジェン受容体

正常な乳腺組織や良性腫瘍にはプロジェステロン受容体(PRs)とエストロジェン受容体(ERs)が多く発現していることが分かっています。

一方で、侵襲性の高い悪性の乳腺腫瘍ではこれらの受容体の発現は少ないです。

また、リンパ節転移が認められた腫瘍ではこれらの受容体は陰性を示し、ホルモン非依存性になっていることを示唆しています。

 

発情防止薬プロジェスチンの影響

犬の発情を予防させる薬としてプロジェスチンを投与することがヨーロッパではあります。

一般的にプロジェステロンは筋上皮の発達に関与し、乳腺の小葉胞状組織の発達を誘発されます。そして、エストロジェンは管状組織の発達を誘発します。

プロジェスチンの投与によって、良性腫瘍の発生率が増加することが分かっています。

 

肥満との関係

肥満は犬は乳腺腫瘍になるリスクが上がります。

 

 

その他の因子

c-erbB-2:がん遺伝子。犬の悪性腫瘍で過剰に発現している。

p53:腫瘍抑制遺伝子。乳腺腫瘍の犬の17%で突然変異を認める。

COX-2良性腫瘍で24%、悪性腫瘍で56%発現している。

細胞接着因子:腫瘍の浸潤増殖に関与。

 

【乳腺腫瘍の病理学】

組織学的所見と臨床挙動の齟齬

病理学的検査の結果、犬の乳腺腫瘍は良性、悪性の比率は約50%ずつです。

病理学的に悪性と診断されたものが臨床挙動と相関しているわけではないです。

臨床挙動と相関があると言われているものはグレード分類です。

Elston-Ellisのグレード分類が有名です。

 

Elston-Ellisのグレード分類

この分類は人の予後的病理学的病理分類をKarayannopoulouらが犬に応用できるかを調べた実験です。

Elston-Ellisのグレード分類

f:id:otahukutan:20181010161447p:plain

上の図のように病理組織学的に乳腺腫瘍のグレードを分類すると予後の相関が見えてきます。

この論文ではグレード別に2年間の生存率を追っている。

グレードⅠでは2年間の死亡数は27匹中0匹(0%)

グレードⅡでは28匹中13匹(46.4%)

グレードⅢでは30匹中26(86.7%)

これらのデータをグラフ化したのが下の図です。

グレードⅠ、Ⅱと比較して、グレードⅢは有意に生存率が低下していることを示しています。

この実験ではこの他にも腫瘍別に生存率を出したり、リンパ節転移群と転移無し群で分けて生存率を出したりと非常に有益なデータを出しています。

 

f:id:otahukutan:20181010161613j:plain

『Histological Grading and Prognosis in Dogs with Mammary Carcinomas: Application of a Human Grading Method』より引用

 

 

【症状】

腫瘍ができる場所

犬は5対の乳腺があります。

乳腺腫瘍の65~70%は第4乳腺と第5乳腺にできます。

これはこの二つの乳腺が他の乳腺よりも大きいからです。

 

良性と悪性の症状

良性腫瘍と悪性腫瘍で触診上若干の違いがあります。

良性腫瘍小さく、境界が明瞭

悪性腫瘍:急速に増大、境界不明瞭、深部組織に固着、自潰、炎症

 

【診断】

乳腺腫瘍の診断は触診、レントゲン、エコー、細胞診が臨床現場でできる治療法です。

5つの乳腺のリンパ管は第1~3乳腺(前方の3つ)と第4.5乳腺(後方の3つ)で分かれています。

第1~3乳腺:腋窩リンパ節

第4.5乳腺:鼠径リンパ節

発生頻度や転移のことを考慮して、第1-3乳腺と第4.5乳腺に分けて検査します。

第1-3乳腺

胸部レントゲンを撮影し、肺や胸骨LNへの転移がないかを検査します。

 

第4,5乳腺

腹部レントゲンを撮影し、リンパ節転移がないかを確認します。

その他、エコーで腰椎下LNの転移をみたり、直腸検査で内腸骨LNの転移確認します。

 

FNA

乳腺腫瘍に関してFNAの診断精度は低いと言われています。

しかし、腫瘍性疾患か炎症性疾患の鑑別肥満細胞腫などの乳腺腫瘍以外の疾患、あるいは手術が禁忌と言われている炎症性乳がんの鑑別に用いることができます。

 

病理組織学的検査

確定診断に使われます。

主に手術で乳腺を摘出した後に行われる検査です。

 

【治療】

外科療法

乳腺腫瘍は炎症性乳がんや転移がある場合以外は外科的治療が第一選択となります。外科的切除の一般原則として『正常乳腺を含めて、腫瘤が存在する近隣の乳腺を含めて大きく切除する』ことが推奨されています。

切除の範囲は多くのバリエーションがあります。

 

①腫瘤切除術(ランペクトミー)

適応腫瘤は0.5cm以下、硬く、固着がない、表層にある良性腫瘍

非適応:悪性腫瘍

術後、病理検査にて良性・悪性やマージンが十分かを確認

 

②単一乳腺切除術

適応:腫瘤は1cm以上の大きさ、皮膚や筋肉に固着がある

 

③部分乳腺切除術

残しておくと転移する可能性がある乳腺組織の動静脈とリンパ管流出路を考慮しなければなりません。

 

乳腺組織の動静脈は主に3つの血管によって2つの領域が支配されています。

支配血管

第1-3乳腺:浅前腹壁動静脈

第4,5乳腺:浅後腹壁動静脈+外陰部動静脈

 

支配リンパ管

乳腺のリンパ管が向かうリンパ節は4つあります。

腋窩LN、浅鼠径LN、腰椎下LN、前胸骨LN

これら4つのリンパ節がどの乳腺から流出されるかをそれぞれ示します。

第1-3乳腺腋窩LN・前胸骨LN

第3-5乳腺浅鼠径LN・腰椎下LN

 

ここで重要になるのは第3乳腺は両方のリンパ管から排泄されているということです。

第1,2乳腺の交流と第4,5乳腺の交流は大きく、これら2つの乳腺群は群内での交流が盛んです。

血管の支配とリンパ管の流出路を考慮した結果、

一般的に行われる部分乳腺切除術としては第1-3乳腺の切除か、第4-5乳腺の切除を行います。

 

片側あるいは両側乳腺全摘出

この2つの術式は侵襲度が高いですが、複数の腫瘍がある場合にまとめて切除でき手術時間の削減や取り残しのリスクが減ると言われています。

一方で、犬の乳腺腫瘍は良性・悪性は50%ずつであり、大きな術創が必要となる全摘出は過剰な医療行為ではないかとも言われています。

これら2つの利点欠点によって、乳腺全摘出を行うべきかは議論が多く交わされています。

また、全摘出が他の術式と比較して生存期間を延長させることはありません。

 

どの術式にするかは担当医と飼い主さんで十分相談されることをお勧めします。

 

その他の治療法

乳腺腫瘍の場合、抗がん剤やその他のホルモン療法などの効果が証明されていません。

やはり、外科手術と術後の補助的な抗がん剤療法がオーソドックスな気がします。

効果があると言われている抗がん剤

ドキソルビシンとシクロフォスファミドです。

 

【予後】

組織学的グレード

組織学的グレードによる予後の相関は先ほど説明しているので、こちらを参考にしてください→

『Elston-Ellisのグレード分類』

 

大きさ

腫瘍の直径が3cm未満のものは3cm以上のものに比べて、予後が良いです。

 

リンパ節転移

再発率の比較

転移有り:術後6ヶ月以内の再発率が80%以上

転移無し:術後2年後の再発率は30%以下

であり、再発率は転移がない方が低いです。

 

次に、生存率の比較です。

術後2年間の生存率の比較

転移有り:14%

転移無し:79%

でした。明らかに転移が無い方が生存率は高いです。

 

プロジェステロン受容体、エストロジェン受容体

人でよく検査されるプロジェステロン受容体やエストロジェン受容体の陽性率は犬の乳腺腫瘍でも予後に相関するという報告があります。

陽性率が高いほど、予後が良好です。

 

Ki-67

Ki-67とは核内タンパクの1つです。この核内タンパクは腫瘍の増殖能を示すバロメーターに使われています。Ki-67指数が高いと予後が悪いという結果が出ています。 

 

【さいごに】

今回は犬の乳腺腫瘍について説明しました。犬の乳腺腫瘍は良性・悪性が50:50と言われているため一概に予後が悪いとは言えませんが、全摘の手術になるとかなりの傷口が必要となり、動物にも負担は大きくなります。

悪性の腫瘍ほど増殖スピードは早いため、早期発見は難しいかもしれませんが、抱っこしたりするついでにこまめに乳腺が腫れていないかチェックしてあげることは早期発見に繋がります。